サーバーPCの簡単な歴史
メインフレーム主流だった昔と違い、現代ではサーバー側の機器は全て「AT互換機」と呼ばれるPCをサーバー用に改良したものが使用される。
これはクラウドコンピュータでもレンタルサーバーでも同じだ。
「AT互換機」とはWindowsとLinux系OSとFreeBSDの稼働するPCの規格のことだ。
「AT互換機」ではないPCは、スマホとタブレットを除けば、現代ではApple社のMacしかない。
そのApple社のPCも通信相手のサーバー機は「AT互換機」のPCサーバーである。
「AT互換機」というPCの規格は、その昔Apple社がPC市場で唯一成功していた時代。
IBMがそのPC市場に参入する為に、急いでPCを設計開発する必要があり、CPUもメモリもOSも全ての部品を他社に外注してAT規格というPCの規格を定めた。
このAT規格をIBM-PCとして販売し始めたのが、このPC規格の初まりである。
IBM-PCの販売は、1981年のことだ。
ちなみに搭載されたOSは、Microsoft社のMS-DOSである。
全ての部品を外注していたため、事実上の公開規格となり、他社が全く同じ規格のPCを安価に製造して販売する事が可能になった。
IBMにとって、不本意ではあるがオープンアーキテクチャの先駆けである。
この他社の製造したIBM互換PCの事を「AT互換機」という。
現代のPCもサーバー機も、全てこの「AT互換機」の規格が継承され現代に至る。
サーバー機のPCアーキテクチャは、デスクトップと同じであるが、24時間連続稼働するサーバー機はデスクトップPCとは異なる信頼性が求められる。
また、デスクトップPCと異なり、サーバーPCはデスクトップPCとの通信と大量のデータ処理が主な仕事なので、デスクトップPCとは求められる機能が違う。
例えばサーバーPCに高解像度のグラフィック性能は必要ない。
しかし、沢山のタスクやスレッドを同時に処理する性能は、デスクトップPCとは比較にならないほど高性能である事が求められる。
システム障害は許されないし、それによるデータの消失は特に許されない。
近年(20年ぐらい前から)は、これらのサーバーPCに求められる性能と機能を備えたサーバーPC専用の「AT互換機」が製造され、OSもサーバーPC専用のOSが提供され利用されている。
代表的なサーバーPC専用のOS
「AT互換機」で稼働するOSは大きく分けて三種類になる。
Windows と Linux と FreeBSD である。
Windows にはデスクトップ用の Windows10 や Windows11 と、サーバー用の Windows Server がある。
Linux には多数のディストリビューションがあり、その中でデスクトップ用とサーバー用のOSが提供されている。
FreeBSD はあまり利用されていないが、信頼性もレスポンス性能も良く、一部の高負荷環境では使用されている。
代表的なサーバーPC専用のOSは以下の物になる。
Windows Server
Red Hat Linux
Oracle Linux
SUSE Linux
Debian
Ubuntu Server
Fedora
CentOS
FreeBSD
Windows Server
企業の社内業務システムでは、おそらく最も広く利用されているサーバーOSである。
企業向けデスクトップOSとして広く普及している Windows10 や Windows11 のサーバー版のOSである。
当然の事ながら Windows10 や Windows11 と接続して利用する場合、非常に相性が良い。
Linux系OSに比べて、システム管理に要求されるスキルレベルが高くなく、そのシステム管理業務によっては、特別なITスキルが無くても扱える。
殆どの操作をGUI画面で行える比較的扱い易いサーバーOSである。
有料ソフトなのでライセンス料はそれなりに高いが、それを扱うシステム管理者のスキルレベルが比較的低くて良いので、システム管理者の人件費を込みで考えると、企業にとって必要なコストは高いとは言えない。
システム管理はGUIだけではなく、CLIでもスクリプトでも使えるので、その作業をスクリプトにより自動化する事もできる。
単独稼働する小規模なサーバーから、大規模なデーターセンターのサーバーOSまで、大中小様々なサーバー構成に対応出来る。
大量のサーバー群のネットワーク構成やセキュリティ管理もソフトウェアで自動化することも可能だ。
サーバー管理の初心者には Windows Server から始めるのが比較的易しい。
Linuxディストリビューション
Linux はOSの名前ではなく、OSの中枢部のカーネルと呼ばれるコア部品の名前である。
UNIXと呼ばれるOSを参考にリーナス・トーバルズ氏によって開発され、ソースコードが公開されているオープンソースのフリーソフトである。
このLinuxカーネルをコアに、ファイルシステムやGUIシステムなどOSに必要な他の部品を世界のプログラマーなどがオープンソースのフリーソフトとして開発して公開している。
これらのオープンな部品を様々な法人や集団が、それぞれ好きなように組み立ててOSとして提供したものが、Linuxディストリビューションと呼ばれるOSのグループである。
Linux OS は、企業の業務システムでも使われるが、システム管理に高いスキルか要求されるため、ITエンジニアを多く擁する企業でしか業務サーバーOSとして使用していない。
しかし、レンタルサーバーなどで使用されるWebサーバー用のOSとしては世界で最も使用されている。
Linux OS には、豊富なオープンソースのソフトウェアが提供されているため、ある程度ITスキルの高い人物や組織にとっては、優れたソフトウェアが無料で多数提供される非常に魅力的なOSである。
Linuxディストリビューションには、デスクトップOSもサーバーOSも存在する。
以下に、日本でよく使われているLinuxディストリビューションのサーバーOSについて解説する。
Red Hat Linux
Linuxディストリビューションはほほ3種類のディストリビューションのソースコードを土台に改良される形で作られている。
その土台となったディストリビューションは、Red Hat Linux と Debian と Slackware の3つである。
Red Hat Linux は Red Hat社の製品で、当初はオープンソースのLinuxカーネルやGNU製品を扱い安いように独自に組み立てて簡単に使えるOS製品にして配布していた。
このOS製品はサポートサービスのみ有料で販売する形式でRed Hat社は売上を立てていた。
初期のRed Hat Linux は大半がオープンソースソフトウェアなので、他の法人や集団などがこれをベースに様々な改良ディストリビューションを生み出した。
現在のRed Hat Linux は、RHEL(Red Hat Enterprise Linux)と名を変え、Red Hat社独自のソフトウェアを多く組み込み、有償OSとしてライセンス販売されている。
現在は無料では入手できない。
Red Hat社は2019年にIBMに買収された。
Debian
1990年代から世界中の有志の開発者によって開発が継続されているディストリビューションである。
当初よりビジネス目的ではないオープンソースのフリーソフトウェアだ。
現在も無料で配布されている。
Red Hat Linux と同様に、現在存在する様々のLinuxディストリビューションの土台となっている。
LinuxディストリビューションのOSのシェアは、16%程度と聞く。
Slackware
最古のLinuxディストリビューションである。
構成されたソフトウェアはほぼ改造されていない素の状態で、パッケージ化されており必要最小限の構成で組み立てられている。
昔は人気があったようだが、現在はあまり見かけない。
少なくとも日本国内ではほとんど利用されていない。
Linux OSに対する深い理解が必要で、初心者向きでは無いとも聞く。
Linux自体の学習教材としては良いらしい。
Slackware はサーバー専用OSではない。
Ubuntu Server
Ubuntuは「ウブンツ」と読む。
Ubuntuはデスクトップ版とサーバー版のOSが無償提供されている。
日米市場においては最も広く利用されるサーバーOSである。
Ubuntuサーバーのシェアは33%程度と聞く。
Debian のソースコードを土台に開発された。
扱い方も基本的な部分は Debian と同じである。rootでのログインが禁止されいるなど使いやすくするための工夫はあるが。
Debian と同様にフリーソフトである。
ソースの大半はオープンのようだが、一部は私有ソフトウェアを組み込んでいる。
ビジネスモデルとして、カノニカル(Canonical)という団体の支援で運営される。
このカノニカルはUbuntuのサポートやコンサルを有償で販売することで収益を上げる。
他にも独自の有償ソフトウェアの販売などでも収益を上げており、この収益の一部をUbuntuの開発コミュニティーへ投入する事でUbuntuの提供を維持する。
Debian と違い、有志の開発者のボランティアだけに依存していない。
ある程度ビジネスとして運営されている。
その為か、Debian に比べて開発の速度が速い。
欠点としてはライセンスが完全に自由では無い。
完全なオープンソースでライセンスも私有されていないOSが必要なら Debianを選択するべきである。
特にソースコード全ての閲覧を必要とせず、提供されたままのOSを利用するだけならば、Ubuntu が相応しい。
Fedora
Red Hat 社により、最新技術を早期に積極的に導入して提供する方針のLinuxディストリビューションである。
RHEL(Red Hat Enterprise Linux)に新技術を取り込む前の試作品のような製品である。
新技術の早期普及を促進することもRed Hat 社が Fedora を提供する理由である。
Fedora はコミュニティーが主導で開発されるフリーソフトである。
位置づけ的には Ubuntu に似ている。
Oracle Linux
Red Hat Linux を土台に、DBMS大手のOracle社によって開発された有償のLinuxディストリビューションである。
初めからフリーソフトでは無い。
Oracle製品を実行する基盤OSとして提供されている。
その為、Oracle Database 製品などは、比較的簡単にインストールできる。
Oracle製品を使用するなら、Oracle Linux か Windows Server を使用するのが妥当だろう。
SUSE Linux
Slackware を土台に開発されたディストリビューションで、ドイツを拠点にSUSE社によって世界展開されている。
当初はオープンソース・フリーソフトで、その後フリーの openSUSE と、有償の SUSE Linux Enterprise Server に別れ、SUSE は有償ライセンス製品として世界各国で販売されている。
SUSEは主に欧州で普及している Linux OS で、日本や米国ではマイナーな存在である。
Slackware ベースなので、日本人や米国人の使い慣れた、Red Hat や Debian 系列のディストリビューションとはかなり扱い方が異なり、なじみにくい。
openSUSE
SUSE から分裂して、コミュニティーより開発されるオープンソース・フリーソフト。
位置づけは Ubuntu や Fedora に近い。
SUSE Linux Enterprise は openSUSEコミュニティーによって開発される。
openSUSE は SUSE社の支援と有志のコミュニティーにより開発される。
SUSE と openSUSE の関係は、Red Hat Enterprise Linux と Fedora の関係に似ている。
openSUSE も欧州中心に普及しているディストリビューションで、日米ではなじみが薄い。
ディストリビューションのシェア
Linuxディストリビューションには、今のところデファクトスタンダードと呼べる製品が無い。
最も普及している Ubuntu Server は、33%程度でデファクトスタンダードと呼べるシェアではない。
二番目の普及率の Debian が15%程度である。
他のディストリビューションのシェアはこれより少ない。
無償製品の方がシェアは高いのは当然なので、有償製品が使われていないわけではない。
有償製品だとシェアより、どんなアプリと組み合わせるかによって選択肢が変わる。
Oracle Database を使用するなら Oracle Linux を、SAP を使用するなら SUSE を、DB2などIBM製品なら Red Hat を、という具合である。
有償サポートで最もメジャーなのは日米なら Red Hat 、欧州なら SUSE である。
私は中国・インドやASEAN などのシェアは分からない。
その他のディストリビューション
長い間、CentOS という Red Hat ベースのディストリビューションがサーバーOS市場で大きなシェアを占めてきた。
しかし、CentOSはその開発を2021年に終了し、その技術を有償製品の開発と販売に向けることを発表した。
CentOS は CentOS 8 を最後に終了した。
既にサポートも存在しない。
今でも使用しているサーバーやユーザーは存在しているが、それらはWindows7を今でも使用しているユーザーと同じようなものである。
セキュリティパッチもリリースされないサポートを終了したOSを使用すべきでは無い。
「昔CentOSというOSが広く使われていたが、今は存在しない」というのが事実だ。
今使用しているユーザーは別のディストリビューションに変更すべきだ。
Free BSD
UNIXの後継OSとも言えるOS。
LinuxはUNIXを参考に独自仕様で開発されたものだが、FreeBSDはUNIXを開発したものである。
オープンソース・フリーソフトだ。
Linuxはカーネル(OSの中枢)だけの呼称だが、FreeBSDはそれ自体が全OSである。
昔は広く使用されていたが、現在はサーバーシェアが1%程度と一部でしか使用されていない。
高負荷に耐える特性を持つ。
パフォーマンスも良いらしい。
Netflix や 米国 Yahoo などが使用していると聞く。
WSLへの対応
WSL(Windows Subsystem for Linux)で対応しているOSは、以下のものになる。
Ubuntu
Debian
Kali Linux
Oracle Linux
openSUSE
SUSE Linux Enterprise
Fedora Remix for WSL
Red Hat Enterprise Linux は使用できない。
それ以外の主要なLinuxディストリビューションは使用できる。
Hyper-Vへの対応
Hyper-V で稼働できるOSは以下のものになる。
Microsoft の OS (Windows10, Windows Server など)
Red Hat Enterprise Linux
CentOS
Debian
Oracle Linux
SUSE Linux Enterprise
Ubuntu
FreeBSD
openSUSE と Fedora は公式サポートされていない。
まとめ
以上、代表的なサーバーOSを紹介した。
AT互換機用のOSは、デスクトップもサーバも、Windows, Linux, FreeBSD の三つが主流だ。
Linux はインターネットのサーバー側では、最も広く普及しており、デファクトスタンダードに近い。
企業の業務システム用サーバーOSでは、依然として Windows Server は広く使用されている。
FreeBSD はハイパフォーマンスな特殊用途に使われる傾向にあるようだ。
ユーザーが自分でサーバーを運用するとき、予算の制約がそれほど無ければ Windows Server になると思う。運用が楽だからだ。
Linux スキルが充分にあり、予算の制約もあるならLinuxディストリビューションでサーバーを設置することになるだろう。
この記事で、適切なOSを選択できれば幸いだ。