日本の情報通信業だけが労働生産性低下する要因をAIに質問してみた(Gemini Deep Research のレポート)

システム開発の問題

先日のこの記事「2014年以降は日本の情報通信業だけが生産性を低下させている件について」で紹介した日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2024」というレポートの内容について、Gemini の Deep Research に「なぜ日本の情報通信業だけ生産性が低下するのか」質問して見ました。
以下がプロンプトと回答レポートです。
AIの回答をそのまま掲載します。

公益財団法人の日本生産性本部から公開された
「労働生産性の国際比較 2024」という報告資料で、情報通信業の労働生産性について、同封した画像文書のように生産性低下を報告しています。
日本だけ、情報通信業の労働生産性が低下する理由を調査してください。
わからないのなら、分からないと回答してください。
ハルシネーションは避けてください。
https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/report2024.pdf

日本の情報通信業における労働生産性低下の要因と国際比較:構造的課題と提言

I. はじめに

本報告の目的と背景

公益財団法人日本生産性本部が公開した「労働生産性の国際比較 2024」報告書は、日本の情報通信業の労働生産性が主要先進7カ国中、唯一低下しているという特異な状況を報告しています。この報告は、日本の情報通信業が直面する課題の深刻さを示唆しており、その背景にある多層的な要因を深く掘り下げ、他の先進国との比較を通じて日本の情報通信業が抱える構造的課題を明らかにすることが本報告の主目的です。この分析は、複雑な経済現象に対する多角的な理解を深め、今後の政策立案や企業戦略に資する洞察を提供することを目指します。

日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2024」における情報通信業の特異な現状

日本生産性本部の報告書(ユーザー提供画像)は、情報通信業が主要産業の中でも労働生産性が比較的安定的に上昇する傾向にある中で、日本のみが年率平均上昇率でわずかながらマイナス(-0.5%)を記録していることを指摘しています 1。これは、米国(6.8%)、英国(6.6%)、フランス(2.7%)、ドイツ(2.5%)など、他の主要先進国が軒並みプラス成長を遂げているのと対照的です 1。

この状況は、単に日本の情報通信業の生産性が低いという問題に留まらず、世界の主要経済大国が情報通信業において生産性向上を実現している中で、日本だけが逆行しているという根本的な乖離を示しています。この乖離は、日本の情報通信業が抱える課題が、普遍的な経済動向から生じるものではなく、日本固有の構造的または文化的な要因に深く根差している可能性が高いことを示唆しています。したがって、この「日本固有の状況」を理解することが、効果的な分析と政策策定のために不可欠となります。他の国々で成功した解決策が、そのまま日本に適用できるとは限らず、日本のビジネス環境や情報通信産業の内部力学に対するより深い調査が必要であることを意味しています。

II. 日本の情報通信業における労働生産性の現状と国際比較

情報通信業の労働生産性トレンド:主要先進国中唯一のマイナス成長

日本生産性本部のデータ(ユーザー提供画像)が示す通り、日本の情報通信業の労働生産性は2000年以降、他の主要先進国が堅調な伸びを示す中で、わずかながらも低下傾向にあります。特に2000年から2023年の年率平均上昇率では、米国が6.8%、英国が6.6%と高い伸びを示すのに対し、日本は-0.5%と、主要7カ国で唯一のマイナス成長を記録しています 1。

実質付加価値額の成長と労働生産性の乖離

過去10年間を概観すると、日本の情報通信業の実質付加価値額は10%強増加しており、産業としての成長は認められます 1。しかし、この付加価値額の増加が労働生産性の上昇に十分に結びついていない状況が確認されます。同時期に米国や英国では実質付加価値額が2倍以上、他の国でも20%から60%増加し、それに伴い労働生産性も大きく向上しています 1。

この状況は、経済的なアウトプット(付加価値額)の増加が、労働者一人当たりの効率性(労働生産性)の向上に結びついていないという、重要な「デカップリング」現象を示しています。これは、付加価値額の成長が、一人当たりの効率性の改善ではなく、同等かそれ以上に大きな労働投入量(例:従業員の増加、単位生産量あたりの労働時間の増加)によって吸収されている可能性を示唆しています。この非効率性は、日本の職場で見られる過度な上司の指示や判断への依存、業務量の偏り、業務の属人化といった非効率な業務体制 2、そして「一つの仕事に携わる社員数が多く、時間をかけすぎている」という状況 3 に起因していると考えられます。このような付加価値創出と生産性向上の乖離は、特にグローバル競争が激化し、労働人口減少という課題を抱える日本において、持続不可能なモデルであり、情報通信分野における長期的な競争力を損なう深刻な構造的問題を示しています 4。

主要先進国との比較:年率平均上昇率とコロナ禍からの回復状況

コロナ禍前(2019年=100%)と比較した情報通信業の労働生産性では、米国が126.8%、英国が108.6%、フランスが103.1%、イタリアが107.2%と、多くの国でコロナ禍前水準を上回る回復・成長を見せています 1。これに対し、日本は88.4%と最も回復が遅れており、ドイツ(98.8%)やカナダ(98.1%)でさえわずかに下回る程度であることから、日本の回復の遅れが際立っています 1。

このデータは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが、世界的にデジタル化とリモートワークの急速な加速を促したにもかかわらず、日本においては既存の生産性課題を悪化させた可能性を示唆しています。日本が抱えるレガシーシステムへの依存、高度なIT・DX人材の深刻な不足、組織的な変革への抵抗といった根本的な障壁が、他の先進国のように強制的なデジタルシフトを生産性向上に結びつけることを妨げたと考えられます。むしろ、急進的かつ戦略的ではないデジタルツールの導入が、日本企業内に以前から存在していた非効率性を浮き彫りにし、増幅させた可能性もあります。この状況は、日本にとって大きな機会損失を意味します。他の国々が危機をデジタル変革と生産性向上の契機とした一方で、日本はさらに遅れをとってしまいました。これは、プレッシャーの下で適応し、革新し、技術導入を具体的な効率改善に結びつける能力において、より深いシステム上の問題が存在することを示唆しており、日本の国際競争力に長期的な影響を及ぼす可能性があります。

テーブル 1: 情報通信業の労働生産性の国際比較(2000-2023年)

国名年率平均上昇率(2000-2023年)コロナ禍前水準との比較(2019年=100%)
日本-0.5%88.4%
米国6.8%126.8%
英国6.6%108.6%
フランス2.7%103.1%
ドイツ2.5%98.8%
イタリア1.3%107.2%
カナダ1.1%98.1%

出典: 日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2024」報告書 1

III. 日本の情報通信業の労働生産性低下の主要因

A. デジタル化・DX推進の遅れとIT投資の特性

「守りのIT」投資への偏重

日本のIT投資は、効率化やコスト削減を目的とした「守りのIT」に偏る傾向があります 6。これは、マーケット拡大や新サービス創出を目指す「攻めのIT」を積極的に行う欧米とは対照的です 6。多くの企業がDXの必要性を認識しつつも、具体的な検討が欠け、単に「AIを使って何かできないか」といった指示に留まることも多い状況です 9。DXの目的も、破壊的な変革よりも業務改善やコスト削減に留まる傾向が強いことが指摘されています 9。

この状況は、日本が世界的に見てもIT投資額が大きいにもかかわらず 10、情報通信業の生産性が低下しているという現象の根幹にある問題を示しています 1。問題はITへの投資額の不足ではなく、その投資の戦略的な質と究極的な目的にあります。ITが主に既存システムの維持や段階的なコスト削減のために導入される場合、主要国で見られるような、ビジネスプロセスを根本的に変革し、新たな価値を創造するような大きな生産性向上は期待できません。この「守り」の姿勢は、経営層がITを単なるコストセンターや効率化ツールとして捉え、戦略的資産や競争優位の源泉として認識していないことに起因することが多いです 6。さらに、複雑で老朽化したレガシーシステムの維持に多大なリソースを割かざるを得ない現状が、この傾向を悪化させています 9。これは、資源が常に保守に費やされ、革新に回らないという悪循環を生み出しています。この状況は、単にIT予算を増やすだけでは日本の生産性問題を解決できないことを意味します。ITを破壊的な革新、市場拡大、そして持続的な競争優位の核となる推進力として認識する、根本的なパラダイムシフトが情報通信業において求められています。

レガシーシステムの重荷と「2025年の崖」

日本企業の約8割が老朽化したシステムを抱え、その約7割がDXの足かせと評価しています 9。これらのレガシーシステムは、運用管理費用が高騰し、新しいシステム導入・開発への予算配分を阻害しています 13。また、既存システムがブラックボックス化しているため、システム障害への対応が遅れ、戦略的なIT投資が困難になっています 9。レガシーシステムは、クラウドベースの新しいデジタルツールと互換性がなく、導入を妨げたり、非効率な二重運用を生じさせたりしています 14。経済産業省が指摘する「2025年の崖」は、このレガシーシステム利用の継続がもたらす経済的損失(年間最大12兆円)やセキュリティリスクの増大を警告しています 4。

「2025年の崖」は、単に将来のリスクとして語られるだけでなく、すでに日本の生産性向上を積極的に阻害している「生産性の谷」として認識されるべきです。老朽化したITシステムは、すでに高額な維持費用を発生させ、しばしば「ブラックボックス化」しており 9、現代のクラウドベースのツールとの互換性がないため、企業は新たな技術導入の恩恵を十分に受けられません 14。これらの非効率で時代遅れのシステムの維持と、そのための回避策に費やされる多大な財源と人的資源は、戦略的な「攻めのIT」投資から直接的に転用されています。これは、レガシーシステムが資源を枯渇させ、近代化を妨げ、ひいては低生産性を永続させ、変化への抵抗を強めるという悪循環を生み出しています。複雑で、しばしば文書化されていない既存システムの分析と刷新が困難であることも 12、企業をこの高コスト・低革新のサイクルに閉じ込めています。この構造的な障壁は、日本の情報通信業が世界の競合他社に遅れをとる主要な理由の一つです。レガシーシステムの問題が、戦略的な投資と明確な近代化ロードマップを通じて包括的に対処されない限り、新たなデジタルツールやDXイニシアティブによる生産性向上努力は著しく妨げられ、デジタル経済における日本の競争力を制限することになるでしょう。

B. IT・DX人材の不足とスキルギャップ

量と質の不足

日本企業ではDX人材の確保が非常に困難であり、特にDX推進の全体像をデザインし推進する役割を担う「ビジネスアーキテクト」のような人材が最も不足しています 4。米国と比較して、日本のDX人材の確保状況は「致命的」に厳しいとされており、米国では約35%の企業がDX人材を充足していると回答しているのに対し、日本では88.3%の企業が不足を感じているという対照的な結果が出ています 12。IT人材の平均年齢も高齢化が進み、少子高齢化による若年層の人口減少に伴い、2019年をピークにIT関連産業への入職者が退職者を下回り、IT人材は減少に向かっています 4。Webエンジニアは充足しているものの、AIやビッグデータ、クラウドシステムなどの最先端技術を扱えるITエンジニアは不足しているという、スキル構成のミスマッチも指摘されています 4。

この状況は、IT専門家の単純な数不足を超えて、現代のデジタル変革と革新に不可欠な、特定の高付加価値スキルの質的・構造的なギャップが深刻であることを示しています。人口動態の傾向は、全体的な供給問題をさらに悪化させています。このような質的なスキルギャップは、企業が新しい技術に投資しても、それらのツールを効果的に導入、統合、活用して最適な生産性向上を実現するための内部専門知識が不足していることを意味します。このため、外部ベンダーへの過度な依存が生じやすく 9、それが重要な内部の戦略的IT能力や所有権の育成をさらに妨げる可能性があります。また、日本国内でIT人材を育成することが困難であること 6 や、効果的な内部人材育成の問題 18 も、これらの専門スキルの不足が続く要因となっています。この人材不足は、日本の情報通信業にとって大きな機会損失を意味します。経済産業省の試算では、人材ギャップが解消されれば、ビッグデータ、IoT、AI分野で年平均12.1%という大幅な市場成長が潜在的に実現し得るとされています 17。この重要な人材が不足している限り、日本の情報通信業は革新し、新しい技術を効率的に導入し、グローバル規模で効果的に競争することが困難となり、その労働生産性と将来の成長潜在力に直接的な影響を与えることになります。

スキルギャップとミスマッチ

採用されたIT人材において、「スキル・経験が期待よりも不足していた」が最多の課題であり、次いで「業務内容と志向がマッチしていなかった」「自社のカルチャー・価値観とのフィット感が薄かった」が続くことが報告されています 19。

これは、単なる人材不足だけでなく、企業が求めるスキルと市場に存在するスキルとの間にギャップがあること、さらに採用プロセスや企業文化における課題を示唆しています。この状況は、IT人材の単純な数だけでなく、戦略的なニーズに合致し、企業の文化と働き方に適合する「適切な」人材を惹きつけ、統合し、定着させるという、より複雑な課題があることを浮き彫りにしています。これらのミスマッチは、様々な非効率性につながる可能性があります。例えば、新入社員が期待通りのパフォーマンスを発揮できず、プロジェクトの進捗が遅れたり、生産性が低下したりすることがあります。もし彼らのスキルが不十分であれば、既存の有能なエンジニアへの業務負荷が増加し 16、燃え尽き症候群やさらなる離職につながる可能性もあります。さらに、文化的な適合性の欠如は、モチベーションの低下、エンゲージメントの減少、高い離職率を引き起こす可能性があり、これはたとえ優秀な個人であっても同様です。これは、人材獲得と統合プロセスにおけるシステム的な問題を示しています。この状況は、単にIT系の卒業生や外部採用者の数を増やすだけでは解決できないことを意味します。より効果的な人材特定、堅牢な内部研修とスキルアッププログラム、そして企業文化、評価システム、労働条件の根本的な見直し 20 を含む包括的な解決策が必要です。これにより、獲得した人材が真に生産的で、エンゲージメントが高く、長期的に定着できる環境を確保することが求められます。

C. 組織文化とビジネス慣行の課題

経営層のコミットメント不足と変革への抵抗

DX推進の最大の課題として、経営層のDXに対する関心の低さやコミットメント不足が挙げられます 9。ITに見識のある役員がいない企業では、DXの成果が出ていない割合が高いことが指摘されています 12。日本企業は市場変化に対する対応力の遅さが長年の課題であり、「組織内の秩序や安定性」を重視する「調整文化」が、設備投資や前例のない案件への対応を阻害しています 15。判断の正確性よりも上下関係の序列遵守や建前が優先される傾向があることも指摘されています 15。

これらの課題は、単なる業務上または戦術的な問題ではなく、デジタル変革、ひいては労働生産性向上を根本的に阻害する、深く根付いた文化的およびリーダーシップ上の欠陥を示しています。明確なトップダウンのビジョンと積極的なリーダーシップがなければ、戦略的なITイニシアティブは、効果的に実施するために必要な牽引力、資源、組織的な賛同を得ることができません。経営層がITを単なるコスト削減ツール以上の戦略的資産や競争優位の源泉として理解していないことが 6、消極的なデジタル投資 12 や曖昧なDX戦略 9 につながっています。また、根強く残る「調整文化」は 15、意思決定を遅らせ、たとえ効率性が大幅に向上する可能性があっても、確立された規範を破壊する可能性のある新しいツールやプロセスの導入に対する抵抗を生み出します。このような文化的な環境は、変化、実験、革新を積極的に受け入れる環境を求めるアジャイルで革新的なIT人材を惹きつけ、定着させることを困難にしています 20。このリーダーシップの欠如と文化的な慣性の組み合わせは、主要なシステム的障壁を構成しています。たとえ高度な技術ソリューションや非常に熟練した個人が利用可能であっても、支配的な組織的およびリーダーシップ環境が、それらの効果的な展開と最大限の活用を妨げています。これは、日本情報通信業が多額のIT投資にもかかわらず、なぜ世界の競合他社に遅れをとっているのかを根本的に説明するものです。

非効率な業務体制と多重下請け構造

業務を進める上で上司の指示や判断が必須な職場が多く、業務全体にかかる時間が増加し、業務効率が低下しています 2。業務の属人化や量に偏りがあることも非効率の原因です 2。IT業界特有の多重下請け構造は、大規模プロジェクトの効率化を名目にしているものの、下請け企業では自分の仕事が最終プロダクトにどう繋がるか実感しづらく、残業が多い傾向にあります 21。また、下請けになるほどコストが削られ、従業員の年収にも影響が出ます 22。

これらの業務上および構造的な問題は、ワークフロー全体にわたって広範な「見えない非効率性」を生み出し、全体の労働生産性を著しく低下させています。多重下請け構造は、表面的にはプロジェクトの効率化を目的としているものの、逆説的に下位層の労働者のモチベーション低下と当事者意識の希薄化を招いています。過度な階層的な承認への依存 2 や個人の裁量の制限 23 は、意思決定と実行を遅らせ、特にペースの速いダイナミックなIT業界では致命的です。多重下請けモデルは、開発者を最終製品から遠ざけ、賃金を圧縮し 22、しばしば長時間労働につながるため 21、仕事の質の低下、革新性の低下、そしてより直接的な影響とより良い報酬を求める熟練した個人の離職率の上昇につながる可能性があります。この構造はまた、人材育成に不可欠な「自律的なプロフェッショナル意識」を育むことを困難にしています 18。これらの要因は、「付加価値を生み出す力の弱さ」 2 や、観察される付加価値と生産性の間の乖離に直接的に貢献しています。たとえ新しい技術が導入されたとしても、これらの根深く非効率なプロセスとモチベーションを低下させる構造が、その潜在能力を最大限に引き出すことを妨げ、結果としてアウトプットの成長が労働者一人当たりの効率性の比例的な成長に結びつかない状況を生み出しています。

評価制度の課題と長時間労働

評価制度がモチベーション低下を招き、パフォーマンスに悪影響を与えるケースがあります 2。残業手当が多い給与体系は、ゆっくり作業して残業した方が得だという考えを生みやすく、労働生産性を低下させます 2。長時間労働や残業を前提とした業務計画は、集中力を低下させ、ミスを誘発し、やり直しが増えることで生産性を低下させます 2。

日本の情報通信業における既存のインセンティブ構造と根付いた労働慣行は、効率性、革新性、高品質なアウトプットを積極的に「阻害」しており、非効率性を例外ではなくデフォルトのモードにしています。もし従業員が主に労働時間(例:手厚い残業代)に対して報酬を得るのであれば、実際の成果、効率性、革新的な貢献に対してではなく、より迅速にタスクを完了したり、より生産的な方法を特定・導入したりする動機が薄れます。これは労働生産性の目標と直接的に矛盾します。さらに、長時間労働への依存は、集中力の低下、ミスの増加、そしてやり直し作業の必要性につながり 2、これらすべてが実際の時間あたりアウトプットを直接的に減少させます。また、このような労働環境は、ワークライフバランスや有意義な影響を重視する若い人材にとってIT業界の魅力を低下させています 4。これは生産性にとって重要な文化的および人的資源に関連する障壁を構成しています。明確な生産性目標とインセンティブを整合させ、単に費やした時間ではなく効率性と革新性を重視する文化を育成しない限り、たとえ多額の技術投資や人材獲得努力を行っても、その潜在能力を最大限に引き出すことは困難です。これは、真にパフォーマンス重視の環境を創出するために、人事政策と経営哲学の根本的な見直しが必要であることを示しています。

D. その他経済・構造的要因

「ボーモルのコスト病」の影響

日本経済全体が「ボーモルのコスト病」の影響を受けている可能性が指摘されています 1。これは、知識を蓄積した日本企業が海外に事業を移転し、国内に残る生産性の低い企業の割合が拡大することで、生産性上昇の重石となる現象です。情報通信業においても、この現象が労働生産性の伸び悩み、特に付加価値額の成長が生産性向上に結びつかない状況に寄与している可能性があります 1。

この現象は、日本の産業構造が硬直しており、労働力の移動が阻害されていることを示唆しています。情報通信産業は、本来であれば省力化を進め、生み出された余剰時間で新たな付加価値を生み出す力を持つ分野であるはずですが、それが十分に生かされていません 24。これは、雇用が硬直化しているため、優秀な人材が成長分野へスムーズに移動せず、成長産業がその潜在能力を最大限に発揮できないことが足かせとなっていると考えられます 24。結果として、産業構造のダイナミックな転換が起こらず、日本の「市場開拓の努力」が人口減少社会において十分な成果を上げられていない状況に繋がっています。

産業構造の硬直性と労働移動の阻害

日本の労働市場における雇用の硬直性は、労働生産性向上にとって重要な課題です。生産性の低い部門から高い部門への労働力移動が非常に重要であると指摘されていますが 1、日本ではこれが十分に促進されていません。特に情報通信業においては、省力化によって生み出された余剰の労働力を、より高付加価値な分野や新たな価値創造へとシフトさせる動きが鈍い現状があります 24。これは、労働者のスキル獲得のための教育訓練の不足 1、専門性の高い人材の確保の難しさ 1、そして企業文化や評価制度の課題 2 とも深く関連しています。

この硬直性は、企業が新しい技術やビジネスモデルに適応する能力を低下させます。例えば、AIやIoTなどの先端技術が導入されても、それらを活用できる人材が不足していたり、既存の業務プロセスや組織構造が変化に対応できなかったりするため、技術の潜在能力が十分に引き出されません。これにより、情報通信業が本来持つべき、経済全体の生産性を牽引する役割が果たせていない可能性があります。結果として、産業全体のダイナミズムが失われ、国際競争力の低下に繋がっています。

データ活用とイノベーションの停滞

データは現代のデジタル経済における新たな資源であり、その活用はイノベーションと生産性向上の鍵となります。しかし、日本ではデータ活用に関する複数の課題が指摘されています。まず、データの収集にはビジネスモデルの構築やデータ提供者へのインセンティブ付与など、多大なコストを要します 25。また、データの加工や分析に関する技術開発にもコストがかかります 25。収集したデータを第三者に提供する際も、そのコストに見合う利益が得られなければインセンティブが生じません 25。

さらに、データ活用に伴う規制環境も複雑です。忘れられる権利、プロファイリングを含む自動処理の原則禁止、データフリーフロー原則における第三国移転制限などが挙げられ 25、これらがデータの円滑な流通と活用を妨げる可能性があります。企業・工場内データについても、どこに蓄積され、どのように活用されているかが不明瞭なケースが多いです 25。

これらの課題は、日本企業がビッグデータを十分に活用できていない理由の一つであり 15、結果としてイノベーションの停滞に繋がっています。データ活用が進まないことは、顧客ニーズの把握の遅れ 15 や、新たなビジネスモデルの創出機会の損失を意味します 15。政府はデジタル公共財としてのオープンデータ整備やAI活用に伴うリスクへの対処を検討していますが 26、民間レベルでのデータ活用とイノベーション創出には依然として大きな障壁が存在し、これが情報通信業の生産性向上を阻害する一因となっています。

IV. 結論と提言

総合的な分析結果

日本の情報通信業における労働生産性の低下は、単一の要因に起因するものではなく、複数の構造的、文化的、そして人的資本に関する課題が複雑に絡み合った結果であることが明らかになりました。主要先進国が情報通信業で堅調な生産性向上を達成している中で、日本が唯一マイナス成長を記録しているという事実は、日本の課題が国際的なトレンドから乖離した、より根深い問題であることを示唆しています。

分析を通じて、以下の主要な課題が浮き彫りになりました。

  1. デジタル化・DX推進の遅れとIT投資の特性: 「攻めのIT」ではなく「守りのIT」への投資が中心であり、ITが価値創造の手段として十分に認識されていません。また、老朽化したレガシーシステムが刷新を阻み、多大な維持コストと非効率性を生み出しています。
  2. IT・DX人材の不足とスキルギャップ: 量的な不足に加え、AIやビッグデータなどの先端技術を扱える質の高い人材、特にDX推進を担うビジネスアーキテクトの不足が深刻です。採用におけるスキルや文化的なミスマッチも、人材の定着と生産的な活用を妨げています。
  3. 組織文化とビジネス慣行の課題: 経営層のDXに対するコミットメント不足とITリテラシーの低さ、そして変化への抵抗を伴う「調整文化」が、変革を阻害しています。さらに、過度な承認プロセスや業務の属人化、多重下請け構造といった非効率な業務体制、そして残業を推奨するような評価制度が、労働者のモチベーションと効率性を低下させています。
  4. その他経済・構造的要因: 「ボーモルのコスト病」の影響や、労働市場の硬直性による生産性の低い部門から高い部門への労働力移動の阻害、データ活用を阻む規制やインセンティブの欠如も、情報通信業全体の生産性向上を妨げる要因となっています。

これらの要因は相互に影響し合い、悪循環を生み出しています。例えば、経営層のコミットメント不足はDX投資の消極化を招き、それがレガシーシステムの温存とDX人材の育成・確保の遅れに繋がります。結果として、新しい技術やビジネスモデルを導入しても、それを最大限に活用できる体制や人材が不足し、生産性向上に結びつかないという状況が生じています。

提言

日本の情報通信業の労働生産性を向上させるためには、上記で特定された多層的な課題に対し、包括的かつ戦略的なアプローチが必要です。以下に主要な提言を示します。

  1. IT投資の戦略的転換とレガシーシステム刷新の加速:

    • 「攻めのIT」へのシフト: 経営層がITをコスト削減だけでなく、新たな価値創造と競争優位の源泉として認識し、マーケット拡大や新サービス創出のための「攻めのIT」への投資を積極的に行うべきです 6。
    • レガシーシステムの計画的刷新: 「2025年の崖」を現実の「生産性の谷」として認識し、レガシーシステムの刷新に優先的に予算と人材を投入する明確なロードマップを策定・実行すべきです 9。クラウドベースのシステムへの移行を加速し、既存システムとの非互換性問題を解消することが重要です 14。
  2. IT・DX人材の育成・確保とスキルギャップの解消:

    • 高度専門人材の育成と確保: DX推進の中核を担うビジネスアーキテクトや、AI、ビッグデータ、クラウドなどの先端技術を扱える専門性の高いIT人材の育成を国家戦略として強化すべきです 1。企業内での教育訓練を増やし、リスキリングを推進するとともに 1、博士人材や高度なスキルを持つ海外人材を積極的に受け入れる仕組みづくりも不可欠です 1。
    • 採用と定着の改善: スキルや経験だけでなく、業務内容、志向、企業文化との適合性を重視した採用プロセスを構築すべきです 19。柔軟な働き方(リモートワーク、フレックスタイム制)の導入、スキルや経験に基づく公正な評価と処遇、キャリアパスの明確化、そして挑戦を奨励する企業文化の醸成を通じて、IT人材の満足度と定着率を高めることが重要です 20。
  3. 組織文化とビジネス慣行の変革:

    • 経営層のリーダーシップとITリテラシー向上: 経営層がDX推進に強くコミットし、自らITへの見識を高めることが急務です 12。明確なビジョンと戦略を策定し、組織全体に変革の必要性を浸透させるリーダーシップが不可欠です 9。
    • 非効率な業務プロセスの改善: 過度な承認プロセスや業務の属人化を見直し、個人の裁量を拡大し、効率的な業務体制を構築すべきです 2。多重下請け構造に起因する非効率性やモチベーション低下に対処するため、サプライチェーン全体の透明性を高め、適切な評価と報酬体系を導入することも検討すべきです 21。
    • 評価制度と労働慣行の改革: 残業時間ではなく、成果と効率性を重視する評価制度へと転換すべきです 2。長時間労働を前提とした業務計画を見直し、集中力と生産性を高める働き方を推進することが、労働生産性向上に直結します 2。
  4. 経済・構造的要因への対応:

    • 労働移動の促進: 生産性の低い部門から高い部門への労働力移動を促進するための政策的支援を強化すべきです 1。これには、転職支援、職業訓練の拡充、そして企業間の人材流動性を高めるための制度改革が含まれます。
    • データ活用推進のための環境整備: データ収集・分析のコストに見合うインセンティブを企業に提供し、データ共有を促進するための法整備やガイドラインの明確化が必要です 25。AI活用に伴うリスクへの適切な対処と並行して、高品質なオープンデータの整備をデジタル公共財として進めることで、イノベーションの土壌を豊かにすべきです 26。

これらの提言を複合的に実行することで、日本の情報通信業は、国際的な生産性トレンドとの乖離を是正し、持続的な成長と国際競争力の強化を実現できると考えられます。

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