経産省のデジタル経済レポートの内容に驚いている間に、大手SIerが事業転換に取り組んでいるという報道が流れてきました。
“SIerは「2030年までにビジネスモデル転換率50%」を必達せよ” https://japan.zdnet.com/article/35236411/
日本生産性本部が「日本の情報通信業だけが生産性を低下させている」という公報をしていたのを見て、大手SIerはどうしているのか気になっていた為、Gemini Deep Research に質問してみました。
Deep Research の回答を見る限り、大手SIerは既にSI事業の縮小と、主力事業の事業転換に取り掛かっていることが分かりました。
Deep Research の回答を共有したいと思います。
日経XTECHの記事
“NEC・富士通・NTTデータ・日立が挑むコンサルへの転換、「御用聞き」はもうしない”
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/03330/091000001/
と、ZDNETの記事
“SIerは「2030年までにビジネスモデル転換率50%」を必達せよ”
https://japan.zdnet.com/article/35236411/
を読むと、大手SIerがSI事業から段階的に撤退しようとしているようにも見えます。
実際のところ、大手SIer全体としてSI事業から撤退するか、またはSI事業縮小への動きや計画はあるのでしょうか。
あるとすれば、その内容はどのようなもので、どのような速度と規模で行われることが推測できるか、リサーチしてみてください。
分からない事は、分からないと回答してください。
ハルシネーションは避けてください。
トランスフォーメーション・パートナーへの転換:国内大手SIerの戦略的メタモルフォーゼの分析
エグゼクティブ・サマリー
国内大手システムインテグレーター(SIer)であるNEC、富士通、NTTデータ、日立製作所の動向は、従来のシステムインテグレーション(SI)事業からの「撤退」や「縮小」ではなく、より根源的かつ意図的なビジネスモデルの変革として理解するのが最も正確である。これらの企業は、中核となるシステム構築能力を放棄するのではなく、顧客の指示通りにシステムを構築する「御用聞き」としての役割から、顧客の事業変革を長期的に支援するパートナーへと戦略的に転換している。
この変革は、旧来のプロジェクトベースで労働集約的なSIモデルを意図的に縮小し、新たなパラダイムへと移行する動きである。その特徴は以下の4点に集約される。
- コンサルティング主導のエンゲージメント:バリューチェーンの上流にシフトし、顧客戦略の策定段階から関与する。
- プラットフォーム中心・サービス指向の提供形態:個別開発のプロジェクトから、標準化されスケーラブルなソリューション(例:富士通の「Uvance」、日立の「Lumada」)へと軸足を移し、継続的な収益(リカーリングレベニュー)を生み出すモデルを構築する。
- 価値に基づく成果:従来の「人月商売」と呼ばれる工数ベースの価格設定から、具体的な事業価値や成果の提供に基づいた価格モデルへと移行する。
- グローバルな提供体制と競争:国内市場に留まらず、グローバル規模で競争するための組織再編と戦略展開を加速する。
各社の戦略は、この共通の方向性を持ちつつも、独自のアプローチを明確に示している。
- 富士通:最も明確に数値目標を掲げた変革を推進しており、2025年度までにサービスソリューション事業における従来型ITサービスの売上構成比を60%まで引き下げ、自社のソリューション群「Fujitsu Uvance」の比率を30%に高めることを目指している。
- 日立製作所:最も野心的な統合戦略を追求している。自社のデジタルプラットフォーム「Lumada」を核に、強みであるIT、OT(制御・運用技術)、プロダクトを融合させ、長期的にはLumada事業が全社売上の80%を占めるという壮大な目標を掲げている。
- NEC:成長事業(コアDX)とベース事業(従来のSI)を明確に分離し、後者は急成長を追うのではなく収益性改善に主眼を置くという、現実的な「デュアルエンジン」アプローチを採用している。
- NTTデータ:グローバル戦略を最優先に掲げ、NTT Ltd.との事業統合を通じて「Global Top 5」に入るフルスタックのサービスプロバイダーを目指している。特に、高付加価値なビジネスおよびテクノロジーコンサルティング能力の強化に重点を置いている。
この変革は、各社が現在推進する中期経営計画(主に2025年度から2027年度に終了)に沿って進められる、複数年にわたる取り組みである。その速度は意図的にコントロールされており、その規模はこれらの業界巨人のアイデンティティと競争優位性を根本から再定義するほど大きい。
変革への不可避性:レガシーSIモデルの構造的課題の解体
大手SIerがビジネスモデルの変革を迫られている根本的な理由は、従来のSIモデルが内包する構造的課題にある。このモデルは、かつての安定成長期には有効であったが、デジタル経済のダイナミクスには適合しなくなっている。
人月商売の隘路
日本のSI業界を長年支配してきたビジネスモデルは、「人月商売」と揶揄される工数積算型の価格設定である 1。このモデルは、エンジニアの労働時間(人月)を商品として販売することに立脚しており、本質的な構造問題を抱えている。売上成長が投入する人員数に直接比例するため、事業のスケールが困難であり、人件費の上昇が利益率を直接圧迫する 1。さらに、プロジェクトを効率化し、より短い時間で完成させることが売上の減少につながりかねないため、生産性向上へのインセンティブが働きにくいという矛盾も内包している。
多重下請け構造の弊害
大手SIerを頂点とする多重下請け構造は、業界のもう一つの根深い課題である 2。元請けのSIerが受注した案件を二次請け、三次請けの中小SIerへと再委託するこの構造は、各階層でマージンが中抜きされるため、末端のエンジニアに適正な対価が支払われにくく、品質管理も不透明になりがちである。この構造は、業界全体のイノベーションを阻害し、労働環境の格差を生む要因ともなっている 2。
クラウドコンピューティングによる浸食
IaaS、PaaS、SaaSといったクラウドサービスの普及は、オンプレミス環境でのカスタムメイド開発を主戦場としてきた従来のSIビジネスの根幹を揺るがしている 2。クラウドは、スケーラビリティ、導入の迅速性、そして初期投資を抑えられるOPEXベースの価格モデルを提供し、レガシーなSIモデルでは太刀打ちできない価値を顧客に提供する。これにより、従来のインフラ構築案件の需要は構造的に減少し続けている。
「ソリューション営業」から「提言営業」へ
顧客が提示した課題に対して解決策を提案する、従来の「ソリューション営業」も限界に達している 4。デジタルトランスフォーメーション(DX)やサステナビリティといった複雑なテーマに直面する現代の企業は、自社の真の課題が何かを正確に把握できていないことが多い。市場がSIerに求める役割は、受動的な問題解決者ではなく、顧客自身が気づいていない課題を掘り起こし、進むべき方向性を能動的に示す「提言営業」へと変化している 4。しかし、従来のSIモデルはこの種の価値提供を前提として設計されていなかった。
これらの構造的課題は、レガシーSIモデルが安定性とリスク管理を最優先する、いわば低ベータ(市場変動の影響を受けにくい)なビジネスであったことを示している。これは、予測可能性の高い経済環境下では強みであった。しかし、俊敏性とイノベーションが価値の源泉となる高ベータなデジタル経済においては、その強みが逆に足枷となっている。つまり、過去の成功を支えたビジネスモデルのDNAそのものが、現在の市場環境との間に深刻なミスマッチを引き起こしており、これが各社にとって避けては通れない、生存をかけた戦略転換の内的要因となっているのである。
新たな事業環境:SI進化を促す市場の力
SIerの変革は、内部の構造的問題だけでなく、市場からの強力な外部要因によっても加速されている。ITサービス市場全体が縮小しているわけではなく、むしろ力強く成長している。ただし、その成長は特定の高付加価値領域に集中しており、各社はこの潮流に適応しようと必死である。
成長市場への適応
国内ITサービス市場は、年平均成長率(CAGR)6%超という堅調な成長が見込まれており、2028年には8兆8,201億円、2029年には9兆6,625億円に達すると予測されている 5。この成長は、SIerにとって事業戦略を再構築する強力なインセンティブとなる。
市場成長の主な牽引役は、クラウド移行、インフラおよびアプリケーションのモダナイゼーション、DX実現に向けた新規システム投資、そしてAIユースケースの拡大である 5。これらはまさに、大手SIerが新たな戦略でターゲットとしている領域と完全に一致している。
「2025年の崖」という触媒
経済産業省が警鐘を鳴らした「2025年の崖」問題は、日本企業にレガシーシステムの刷新を強く意識させる触媒として機能した 11。老朽化・複雑化した既存システムがDXの足枷となるという危機感は、モダナイゼーションへの巨大な需要を喚起し、SIerはこの特需を捉えるべく事業体制を再編している。
顧客ニーズの変化と「内製化」の潮流
顧客企業の動向も大きく変化している。従来のようにIT機能全体をSIerに丸投げするのではなく、自社内にデジタル技術や開発能力を保持しようとする「内製化」の動きが活発化している 12。これにより、SIerに求められる役割は、単なる開発委託先から、顧客の内製化を支援し、高度な専門知識を提供する戦略的パートナーへとシフトしている。
これらの市場動向は、ITサービス市場が二極化していることを示唆している。一つは、コモディティ化が進み、低成長・低収益に陥りつつある「レガシー領域」。もう一つは、高成長・高収益が期待できる「DX領域」である。大手SIer各社の戦略は、この二極化に対する極めて合理的な対応と見ることができる。つまり、レガシー事業をキャッシュ・カウ(金のなる木)として利益を確保しつつ(NECが「ベース事業」で明確に示すように 14)、そこで得た資本と人材を、UvanceやLumadaといった高成長のスター事業へと再配分する。これは、業界全体で展開される大規模な事業ポートフォリオ改革なのである。
未来への設計図:企業戦略の深層分析
大手4社は、共通の課題認識と市場環境の下で変革を進めているが、そのアプローチは各社の強みや歴史を反映し、それぞれに特徴的である。
富士通:「Uvance」革命とサービスソリューションへの定量的シフト
富士通の戦略は、4社の中で最も透明性が高く、数値目標によって具体的に定義されている。これは、従来のプロジェクトベースのSIから、「Fujitsu Uvance」を核とするサービス・プラットフォーム指向モデルへの明確な転換である。この転換は、顧客のレガシーシステム刷新を支援する「モダナイゼーション」事業によって下支えされ、すべての顧客エンゲージメントは「コンサルリード」で進められる 15。
主要な取り組みと財務目標
Fujitsu Uvance:サステナブルな社会の実現に貢献する7つの重点分野(Vertical 4分野、Horizontal 3分野)で構成されるサービスポートフォリオ。標準化されたサービスを提供し、リカーリングレベニューの創出を目指す 16。
- 目標:Uvanceの売上収益を2025年度までに7,000億円に拡大し、サービスソリューション事業全体の**30%**を占める構成比を目指す。これは2023年度の17%、2024年度の21%からの急拡大を意味する 16。
モダナイゼーション:顧客がレガシーシステムから最新のクラウドアーキテクチャへ移行するのを支援する専門事業。Uvanceの導入を促進する重要な役割を担う。
- 目標:モダナイゼーションの売上収益を2025年度までに3,300億円に拡大する。これは2023年度の1,600億円から倍増以上の成長となる 16。
収益性向上:サービスソリューション事業全体の収益性向上にも注力。標準化、自動化(生成AIの活用を含む)、グローバルなデリバリー体制(JGG)の最適化、そして価値に基づく価格設定(バリュープライシング)を通じて、年間2%の売上総利益率改善を目指す 16。
従来型SIからの定量的撤退
富士通の投資家向け資料は、ユーザーの問いに対する最も直接的な答えを提示している。サービスソリューション事業における売上構成比の変遷目標は、従来型SIの相対的な重要度が計画的に縮小されていることを明確に示している。
表1:富士通 サービスソリューション事業 売上構成比の変遷
売上カテゴリ | 2022年度 (実績) | 2023年度 (実績) | 2024年度 (実績) | 2025年度 (目標) |
---|---|---|---|---|
Fujitsu Uvance | 10% | 17% | 21% | 30% |
モダナイゼーション | 4% | 6% | 9% | 10% |
従来型ITサービス | 86% | 77% | 70% | 60% |
出典:富士通株式会社 投資家向け資料 16
このデータは、従来型ITサービスからの急激な撤退ではなく、戦略的かつ段階的な縮小を示している。わずか4年間でその構成比を86%から60%へと26ポイントも引き下げるこの計画は、極めて意図的な事業ポートフォリオの転換である。
この戦略は、自己強化的なサイクル(フライホイール)を生み出す巧みな設計となっている。まず、コンサルティング主導のアプローチで顧客の経営課題に深く入り込み、レガシーシステムがその足枷となっていることを診断する 16。次に、その解決策として「モダナイゼーション」サービスを提供し、顧客のIT基盤を近代化する 16。これにより、顧客は新しいデジタルサービスを導入する準備が整う。そして最終段階として、近代化されたプラットフォーム上で稼働する高付加価値なリカーリング型サービス群「Uvance」を提案する 17。この「コンサルティング→モダナイゼーション→Uvance導入」という一連の流れは、各ステップが次のステップを可能にし、顧客を富士通のエコシステムに深く取り込みながら、低収益なレガシー保守から高収益なサービスへと移行させる、非常に洗練された戦略である。
日立製作所:IT×OT×プロダクトを「Lumada」で統合するエコシステム戦略
日立の変革は、その事業範囲の広さから、4社の中で最も野心的と言える。同社は、IT(情報技術)とOT(制御・運用技術:工場の生産設備、鉄道、電力網など)、そして物理的なプロダクトという三つの領域で巨大な事業基盤を持つユニークな存在である。その戦略の中核をなすのが、これら三領域から得られるデータを分析し、新たな価値を創出するためのデジタルプラットフォーム「Lumada」である 20。目標は、個別の製品やシステムを販売するビジネスから、データを活用した成果(アウトカム)を提供するソリューションビジネスへと転換することにある。
主要な取り組みと財務目標
成長エンジンとしてのLumada:Lumadaは単なる製品群ではなく、日立の全社戦略の根幹をなすものである 23。デジタルイノベーションを実現するためのソリューション、サービス、テクノロジーの総称として位置づけられている。
野心的な財務目標:
- 中期目標(2024年度):Lumada事業の売上収益2兆6,500億円を目指す 24。
- Inspire 2027計画:2027年度までに、Lumada事業の売上構成比を全社の**50%**にまで高める(2024年度の31%から大幅増)25。
- 長期ビジョン(Lumada 8020):将来的には、Lumada事業が全社売上の**80%**を占め、利益率20%を達成するという壮大な目標を掲げている 26。これは、会社のアイデンティティを根本から変えるという強い意志の表れである。
グローバルな統合:米GlobalLogic社の買収は、シリコンバレー流のデジタルエンジニアリング能力とデザイン思考をグループ全体に注入し、Lumadaソリューションの開発とグローバル展開を加速させるための戦略的な一手であった 23。
日立にとって、従来のSI事業はLumadaの枠組みの中で再定義され、吸収されていく。独立したITシステムを構築するのではなく、OTやプロダクトと連携し、鉄道の予知保全や電力網の最適化といった、より包括的なビジネス成果を提供するシステムを構築することに焦点が移っている 21。従来のSIスキルは依然として不可欠だが、それはより大きな統合的価値提供の一部となっている。
この戦略の根底には、日立が長年抱えてきた「コングロマリット・ディスカウント」(事業の多角化が逆に企業価値を下げてしまう現象)を克服しようという狙いがある。歴史的に、鉄道、エネルギー、ITといった各事業は縦割りで運営されがちであった。Lumada戦略は、データを介してこれらのサイロを繋ぎ、個別の事業単体では生み出せなかった新たな価値を創出することを目的としている 22。例えば、IT(Lumada上のAI分析)がOT(鉄道車両のセンサーデータ)を解析し、プロダクト(車両そのもの)の予知保全を実現する 27。これは、IT、OT、プロダクトのすべてを大規模に保有する日立だからこそ構築できる強力な競争優位性である。したがって、「Lumada 8020」という目標は単なる財務目標ではなく、日立が自らの構造的課題を解決し、複合企業体から相乗効果を生むエコシステム企業へと生まれ変わるための、壮大な戦略宣言なのである。
NEC:コアDXとベース事業の最適化による「デュアルエンジン」戦略
NECの「2025中期経営計画」に示されるアプローチは、より現実的で明確なセグメンテーションに基づいている。同社は事業ポートフォリオを「成長事業」と「ベース事業」の二つに明確に区分している 14。これにより、将来性の高い分野に投資を集中させつつ、伝統的な事業の安定性と収益性を確保するという、バランスの取れた経営を目指している。
主要な取り組みと財務目標
成長事業:このカテゴリには「コアDX」「グローバル5G」「デジタル・ガバメント/デジタル・ファイナンス」が含まれる。これらはトップライン成長を牽引する領域として、優先的なリソース配分を受ける 14。
- コアDX戦略:子会社のアビームコンサルティングを活用したコンサルティングからデリバリーまでの一貫したサービス提供、ハイブリッドITにおける競争力強化、新たなDX領域への拡大を目指す 14。
- 目標:成長事業の売上構成比を、2025年度までに**32.9%**へと引き上げる(従来の12.7%から大幅増)30。
ベース事業:従来のSI事業はこのカテゴリに含まれる。ここでの戦略目標は、積極的な売上成長ではなく**「収益性の改善」**である 14。不採算案件を削減するためのプロジェクトリスク管理強化や、より利益率の高い活動への集中を通じて、事業の質を高めることに主眼が置かれている 31。
NECはSI事業からの撤退を計画しているわけではない。むしろ、SIポートフォリオを積極的に管理している。高・中収益のSI事業は競合他社をベンチマークとして利益率向上を目指し、低収益事業は個別の再建計画の対象となる 14。これは、戦略の重点と資本配分をシフトさせる動きである。NECの将来の成長はもはや伝統的なSI事業からは生まれないが、その事業は安定した収益基盤として維持・管理される、という明確なメッセージを発している。
この戦略は、過去の資産を最適化することで未来の成長資金を捻出するという、古典的かつ巧みなポートフォリオマネジメントである。巨大組織の変革には、研究開発、M&A、人材再教育などに多額の投資が必要となる。NECの確立された「ベース事業」は、成長性は限定的でも安定したキャッシュフローを生み出す。事業を「成長」と「ベース」に分けることで、経営陣はそれぞれに異なるKPIを設定できる。ベース事業は利益率とキャッシュ創出で管理され、成長事業は売上成長と市場シェア獲得で評価される。これにより、ベース事業が生み出す利益が、投資負担の大きいコアDX事業を支えるという自己資金調達の仕組みが生まれる。これが、NECがベース事業の「撤退」ではなく「収益性改善」を掲げる理由である。未来への投資資金を生み出す金の卵を産むガチョウを殺すことはない、という規律ある財務戦略に基づいた変革なのである。
NTTデータ:グローバルへの賭けと高付加価値コンサルティングへの飛躍
NTTデータの変革は、積極的なグローバル展開とバリューチェーン上位への移行という明確な野心によって特徴づけられる。NTT Ltd.の海外事業との統合は、この戦略の根幹をなすものであり、これによりコネクティビティからクラウド、ハイエンドのビジネスコンサルティングまでを提供するグローバルな巨大企業「NTT DATA, Inc.」が誕生した 32。
主要な取り組みと財務目標
- グローバルな野心:信頼されるイノベーターとして**「Global Top 5」**入りを明確な目標として掲げている 34。グローバルガバナンスの統一、事業ポートフォリオの拡張、そしてNTTデータのアプリケーション開発能力とNTT Ltd.のインフラサービス能力の融合を目指す 32。
- フルスタックのサービスプロバイダー:IoTデバイスやコネクティビティからクラウド、ビジネスコンサルティングまで、エンドツーエンドのサービスを提供することで、顧客との関係を深化させ、クロスセル機会を最大化することを目指す 33。
- 財務規模:事業統合とM&Aを通じて圧倒的な規模を追求し、連結売上高4兆円超を目標としている 33。
NTTデータにとって、従来の国内SI事業は依然として重要ではあるものの、それは巨大なグローバルパズルの一片となりつつある。戦略的なエネルギーと投資は、グローバルな能力、特にコンサルティングのような高収益分野の強化に集中している。同社は、単なるRFPへの対応者ではなく、顧客のビジネス・技術ロードマップを策定する戦略レベルの対話者となるべく、コンサルティング部門を積極的に増強している 37。SI事業は、コンサルティング部門が描いた戦略を実行する強力な「デリバリーエンジン」として位置づけられている。
この戦略は、現代のデジタル経済において、最も価値が高く強固な顧客関係は、実装(SI)レベルではなく戦略・コンサルティングレベルで築かれるという認識に基づいている。NTTデータのグローバル統合とコンサルティング強化は、国内のSIerではなく、アクセンチュアのようなグローバルなコンサルティング・ファームと直接競合するための布石である。従来のSIモデルは本質的に受動的であり、SIerを代替可能なベンダーの立場に留める。対照的に、コンサルティング・ファームは能動的に顧客の戦略形成に関与し、不可欠なパートナーとなる。NTT Ltd.との統合は、多国籍企業の経営層と対等に渡り合うために必要なグローバルな事業基盤とブランドの信頼性を獲得する上で不可欠であった 32。したがって、この変革はSI事業を縮小するのではなく、その位置づけを変えるものである。SI能力は、コンサルティング部門が顧客と共創したビジョンを実行するための、強力かつ独自のデリバリー部隊として再定義され、深く統合された防御可能なビジネスモデルを構築するのである。
人材という最重要課題:新パラダイムに向けた労働力の再構築
4社に共通する最も重要な変革の推進力は、人材への大規模かつ意図的な投資である。労働集約型から知識集約型へのビジネスモデル転換は、人材のスキルセットとマインドセットの転換なくしては実現不可能である。
- 富士通は、「プロデュース」「デザイン」「ディベロップメント」「データサイエンティスト」といった明確なDX人材ロールを定義し、社員が自律的にキャリアを形成する「ポスティング制度」や継続的な学習プラットフォームを全社に展開している。これは、Uvanceやコンサルリードのビジネスモデルに必要なスキルを育成するための人事制度全体の再設計である 40。
- NECは、DX人材を2025年度までに12,000人に増やすという明確な目標を掲げている(当初目標の10,000人から上方修正)31。そのアプローチは、「DX専門人材」「DX遂行人材」、そして「全社員」のデジタルリテラシー向上という3階層で構成されており、グループ内のコンサルタントやデータサイエンティストを中核的な強みとしている 44。
- 日立は、95,000人を超えるグローバルなデジタル人材プールを形成し、顧客とのLumadaベースの協創を推進している 46。IT×OT×プロダクトの相乗効果を最大化するため、グループ全従業員を対象とした大規模なDXリテラシー教育を実施している 47。
- NTTデータは、経営戦略から組織変革、技術的知見まで、多様な専門性を持つ2,400人以上のコンサルタント部隊を構築している 37。その人材戦略は、顧客のCXOレベルの相談相手となり、長期的な変革の旅をリードできるアドバイザーを育成することに重点を置いている 38。
4社すべてに共通するこの大規模なDX人材への投資は、ビジネスモデル変革が本物であり、深く戦略的で、後戻りできないものであることを示す最も強力な先行指標である。これは、各社が最も価値ある資産と見なすものが、単なる大人数のエンジニア集団から、より少数精鋭でインパクトの大きいコンサルタント、データサイエンティスト、ビジネスアーキテクトへと根本的にシフトしたことを物語っている。このような大規模な人材投資は、コストも時間もかかり、組織文化の変革を伴う困難な取り組みである。企業がこれほどの努力を払うのは、それが自社の将来を左右する中核戦略であるからに他ならない。したがって、人材の変革は単なる付属的なプロジェクトではなく、ビジネスモデル転換全体を動かす中枢神経なのである。
統合と展望:変革の速度、規模、そして再定義されるSIer
これまでの分析を統合し、ユーザーの当初の問いに答えると、大手SIerの動向は「撤退」ではなく、変革と再優先順位付けであると結論付けられる。従来のSI事業は、以下のいずれかの形で管理されている。
- 近代化と統合:新たなプラットフォーム事業への導入経路として積極的に変革される(富士通のアプローチ)。
- 構成要素としての再利用:より大きなデータ駆動型エコシステムの一部として吸収される(日立のアプローチ)。
- 収益性重視の管理:新たな成長事業への投資原資を生み出す安定したキャッシュフロー源として維持される(NECのアプローチ)。
- グローバルな実行部隊:コンサルティング主導のグローバル戦略を実行するデリバリーエンジンとして位置づけられる(NTTデータのアプローチ)。
変革の速度
この変革のタイムラインは、主に2025年度までを対象とする現行の中期経営計画によって規定されており、一部は2027年度(日立)以降の長期ビジョンも見据えている。これは、売上構成比や事業モデルにおける最も顕著な変化が、今後2年から4年の間に財務報告書上で明確に現れることを示唆している。変革は、戦略的かつ意図的なペースで、まさに今進行中である。
変革の規模
その規模は、業界全体を揺るがすほど大きい。
- 富士通は、わずか4年間で従来型ITサービスの売上構成比が26パーセントポイント低下(86%から60%へ)するという、最も明確な指標を提示している 16。
- 日立が掲げる2027年度までにLumadaの売上構成比を**50%**にするという目標は、非Lumada事業からの大規模なリソース再配分を意味する 25。
- NECが計画する、成長事業の売上構成比を2025年度までに**33%**へと倍増以上にするという目標も、重大な戦略的転換を示している 30。
- NTTデータは単純な比率を提示していないが、4兆円超のグローバル企業体を創設したこと自体が、従来の国内SI中心の事業とは比較にならない、根本的な規模と性質の変化を表している 33。
2030年のSIerの姿は、現在とは根本的に異なるものになるだろう。それは、コードの行数ではなくビジネスの成果によって価値が測られる戦略的パートナーとなる。労働力の規模ではなく、知的財産(プラットフォーム、データ分析能力)の質と、人材が持つ戦略的洞察力で競争する企業へと変貌を遂げるのである。
結論と戦略的示唆
大手SIerが受動的な「御用聞き」であった時代は、明確に終わりを告げた。能動的な提言型のビジネスモデルへの移行は、市場の脅威と機会の両方に対応するための必然的な進化である。
この変革は、日本のITエコシステム全体に大きな影響を及ぼす。
- 顧客企業にとって:より戦略的なパートナーシップを築ける可能性が広がる一方で、SIer各社の独自プラットフォーム(Uvance, Lumadaなど)への「ロックイン」が強まる可能性もある。
- 中堅・中小SIerにとって:従来の多重下請け構造は崩壊の危機に瀕している。小規模なプレイヤーは、ニッチな技術に特化するか、独自の知的財産を開発するか、あるいは新たなプラットフォーム・エコシステムの中で新たな協業の形を見出す必要に迫られる。
- コンサルティング業界にとって:大手SIerは今や、従来の経営・ITコンサルティング・ファームの直接的な競合相手となった。彼らは、戦略を提言するだけでなく、それを大規模に構築・実装できるという強力なアドバンテージを手にしている。
日本の大手SIerが現在進めている変革は、近年の日本企業史上、最も重要な戦略的転換の一つである。それは、グローバルなデジタル経済の中で自らの存在意義と競争力を確保するために、計算され、十分な資金を投じ、そして不可欠な進化である。このメタモルフォーゼの成否は、日本の産業全体の未来に深く関わってくるだろう。
引用文献
- コレ1枚で分かる「工数ビジネスの限界」:即席!3分で分かるITトレンド – ITmedia エンタープライズ, 10月 2, 2025にアクセス、 https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1904/17/news004.html
- SIerのビジネスモデルにおける4つの問題点と、今後の見通しについて解説 – foRPro, 10月 2, 2025にアクセス、 https://for-professional.jp/media/engineer/programmer/article/engineer-sier-problem/
- 次世代BtoB営業②|SIer業界 ―クラウド時代の新たなビジネスモデル― – 株式会社イノーバ, 10月 2, 2025にアクセス、 https://innova-jp.com/media/b2b-sales-next-generation/2
- AI時代のSIerの営業はどうあるべきか:ITソリューション塾 – オルタナティブ・ブログ, 10月 2, 2025にアクセス、 https://blogs.itmedia.co.jp/itsolutionjuku/2025/04/aisier_1.html
- 国内ITサービス市場、2028年には8兆8201億円に到達へ ~クラウド移行とAI活用が成長を牽引, 10月 2, 2025にアクセス、 https://blogs.itmedia.co.jp/business20/2024/12/it202888201_ai.html
- IDC Japan、国内ITサービス市場予測を発表。2028年には8兆8201億円に達する見込み, 10月 2, 2025にアクセス、 https://codezine.jp/news/detail/20572
- IDC Japan、国内ITサービス市場予測を発表。2029年には9兆6625億円に達する見込み, 10月 2, 2025にアクセス、 https://codezine.jp/news/detail/21184
- 国内ITサービス市場は2024年以降も年平均6%超の成長を継続へ、IDC Japanの予測, 10月 2, 2025にアクセス、 https://www.publickey1.jp/blog/24/it20246idc_japan.html
- 国内ITサービス市場予測を発表~2024年以降も平均6%超の成長を継続へ~ – IDC Global, 10月 2, 2025にアクセス、 https://my.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ52768424
- 2024年の国内サービス市場は前年比7.2%増、ITコンサルティング/SIなどの好調が続く IDC | IT Leaders, 10月 2, 2025にアクセス、 https://it.impress.co.jp/articles/-/28034
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- DXのシステム内製化はなぜ必要? メリット・デメリット、注意点などを解説! – GIG INC., 10月 2, 2025にアクセス、 https://giginc.co.jp/blog/giglab/dx-self-manufacture
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- 2025中期経営計画 – NEC, 10月 2, 2025にアクセス、 https://jpn.nec.com/ir/library/annual/2021/pdf/2025plan.pdf
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- NECが2024年度のIR Dayを開催 2025中期経営計画の進捗状況や最終年度に向けた取り組みを説明 – クラウド Watch, 10月 2, 2025にアクセス、 https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/column/ohkawara/1629874.html
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- 富士通統合レポート2023 – Fujitsu, 10月 2, 2025にアクセス、 https://global.fujitsu/ja-jp/about/integrated-report/2023
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- NECがDX戦略、社内人材1万人をDX人材にシフト – ビジネスネットワーク, 10月 2, 2025にアクセス、 https://businessnetwork.jp/article/11108/
- Lumadaの協創アプローチ, 10月 2, 2025にアクセス、 https://www.hitachi.co.jp/products/it/lumada/about/index.html
- DXを推進する人財育成 – 日立アカデミー, 10月 2, 2025にアクセス、 https://www.hitachi-ac.co.jp/service/opcourse/subcate/dx/