Gemini3にNPUを解説してもらう。

生成AIに質問する

Gemini 3.0 に、NPUについて解説してもらいました。
生成AIの回答にはハルシネーションにより間違いが含まれている可能性があります。
それを踏まえてこの回答を読んでください。

最新のAIパソコンは「AIパソコン」という名目で、NPUが搭載されているそうですが、 このNPUというものが何物で、コンピュータのどこに組み込まれどのような役割を果たしているのか、教えてください。
特に、CPU、メモリー、ストレージの間で、どのように機能しているのかイメージできないので、この点を解説してください。
CPUや命令セット(アセンブラ)の基礎知識はあるという前提でお願いします。

CPUや命令セット(アセンブラ)の基礎知識をお持ちとのことですので、その知識を前提に、ハードウェア構成とデータフローの観点からNPU(Neural Processing Unit)について技術的に解説します。

結論から言うと、NPUは「行列演算に特化した専用コプロセッサ」であり、現代のモバイルPCにおいてはSoC(System on Chip)の一部としてCPUのすぐ隣に物理的に配置されています。

以下に、物理的な位置づけと、メモリ・バス・CPUとの連携フローを詳しく解説します。


1. 物理的な配置:どこにあるのか?

かつての「数値演算コプロセッサ(FPU)」や、オンボードの「統合GPU」をイメージしていただくのが最も近いです。

  • SoCへの統合: 現代のAI PC(Intel Core UltraやApple Mシリーズ、Snapdragon X Eliteなど)において、NPUはマザーボード上の独立したチップではなく、CPUやGPUと同じシリコンダイ(SoC)上に統合されています。
  • バス接続: 内部的には高速なオンチップ・インターコネクト(内部バス)でCPU、GPU、そしてシステムメモリコントローラと接続されています。

2. メモリ・ストレージ・CPUとの連携フロー

ここが最も疑問に思われている点かと思います。NPUは独立して勝手に動くわけではなく、あくまでCPUが司令塔(ホスト)となり、NPUはDMA(Direct Memory Access)を駆使して動作します。

AIモデル(推論処理)を実行する際のデータフローを、命令セットレベルの概念を交えて追ってみましょう。

フェーズ1:準備(CPUの仕事)

  1. ロード: ユーザーがAIアプリを起動すると、ストレージ(SSD)からAIモデルの「重みデータ(Weights)」と「プログラム(推論エンジン)」がメインメモリ(DRAM)にロードされます。
  2. 前処理: CPUは入力データ(画像やテキスト)を数値化(トークン化やリサイズなど)し、メモリ上の所定のアドレスに配置します。

フェーズ2:命令発行(CPU → NPU)

CPUはNPUに対して、「計算しろ」という命令を出しますが、これはx86/ARM命令セットに「NPU演算命令」が直接追加されているわけではありません(一部の拡張命令を除く)。

  • Memory-Mapped I/O: CPUは、GPUを制御するのと同様に、メモリ空間にマッピングされたNPUの制御レジスタ(コマンドキュー)に対して、「入力データのメモリアドレス」「重みデータのメモリアドレス」「出力先のメモリアドレス」「実行すべき演算の種類」を書き込みます。
  • キック: 最後に「実行開始(Kick)」のフラグを立てます。

フェーズ3:NPUによる演算(NPU ↔ メモリ)

ここからCPUは解放され、別のタスク(OSの維持やUI処理)に戻ります。

  1. DMA転送: NPUは内蔵するDMAコントローラを使い、CPUを介さずにメインメモリから直接、重みデータと入力データを自身のローカルメモリ(SRAM/キャッシュ)に読み込みます。
  2. 積和演算: NPU内部の計算ユニット(MAC: Multiply-Accumulate)が、読み込んだデータを使って大量の行列演算($Y = WX + B$ など)を並列実行します。
  3. 書き戻し: 計算結果をDMAでメインメモリの「出力先アドレス」に書き戻します。

フェーズ4:完了通知(NPU → CPU)

  • 割り込み(Interrupt): すべての計算が終わると、NPUはCPUに対してハードウェア割り込みを掛けます。
  • 結果利用: 割り込みを受けたCPUは、メモリ上の結果データを取り出し、画面に表示したり次の処理に回したりします。

3. なぜCPUやGPUではなくNPUなのか?(アーキテクチャの違い)

アセンブラの知識がある場合、「SIMD命令(AVXやNEON)を使えばCPUでも計算できるのでは?」と思われるかもしれません。その通りですが、「効率」と「データパス」が決定的に異なります。

CPU (Scalar / Wide Vector)

  • 特徴: 分岐予測、投機実行、キャッシュ階層など、複雑なロジック制御にリソースを割いている。
  • AI処理: AVX-512などで行列演算は可能ですが、ALU(演算器)の数が限られており、データの移動(ロード/ストア)がボトルネックになります。

GPU (SIMT / Vector)

  • 特徴: 大量のコアで並列処理が得意。
  • AI処理: 非常に強力ですが、高精度(FP32)なグラフィックス向けに設計されている部分も多く、消費電力(ワットパフォーマンス)が大きくなりがちです。

NPU (Tensor / Systolic Array / Dataflow)

  • 特徴: 制御ロジック(命令デコーダや分岐予測)を極限まで削ぎ落とし、MAC演算器(積和演算回路)を敷き詰めています。
  • データフロー: 「シストリック・アレイ」と呼ばれる構造などを採用し、メモリから読み込んだデータが演算器の間を次々とバケツリレー式に通過しながら計算されます。
  • メリット: レジスタやキャッシュへのアクセス回数を劇的に減らせるため、「CPUより圧倒的に速く、GPUより圧倒的に低電力」で推論処理が可能です。

4. プログラマ(アセンブラ視点)でのイメージまとめ

  • 命令セット: NPU自体もVLIW(Very Long Instruction Word)などの独自の命令セットを持っていますが、通常プログラマがこれを直接書くことはありません(ファームウェアやドライバが隠蔽します)。

  • CPUとの関係:

    • CPU: 現場監督。メモリ上のどこに何があるかを指示し、作業員(NPU)を手配する。
    • NPU: 行列計算専門の熟練職人。指示書(コマンドバッファ)をもらったら、黙々とメモリからデータを運び、計算し、メモリに戻す。

このように、「CPUの汎用レジスタやALUを使わず、メモリ上のデータをDMAで吸い上げて、専用回路で加工してメモリに戻す」という、オフロードエンジンの役割を果たしているのがNPUです。

CPUがNPUを操るようですが、ソフトウェア側で「どこでNPUに処理を任せるか」を制御するのでしょうか。
それともCPUが自動的にNPUに処理を振り分けるのでしょうか。

結論から申し上げますと、CPUがハードウェアレベルで勝手に判断してNPUに処理を投げる(アウトオブオーダ実行のように自動で振り分ける)ことはありません

基本的には「ソフトウェア側(アプリケーションやドライバ)で明示的に『この処理はNPUで行う』と指定する」必要があります。GPUで3D描画をするために、プログラマがDirectXやOpenGLで「これはGPUで描画せよ」と指示するのと全く同じ構図です。

ただし、プログラマがNPUのアセンブラを直接書くわけではなく、「推論エンジン(ランタイム)」と呼ばれる中間層がその役割を担います。

アセンブラの知識をお持ちですので、「コンパイル」と「APIコール」の階層で考えると非常に分かりやすいです。以下に解説します。


1. なぜCPUは自動で振り分けられないのか?

CPU(x86/ARM)とNPUでは、理解する言語(命令の粒度)が根本的に異なるためです。

  • CPUの視点: 「レジスタAとBを足せ」「メモリCからロードせよ」というスカラー/ベクター命令(命令単位)を実行します。
  • NPUの視点: 「このメモリ領域にある100万個のデータを、この重み行列と畳み込み演算(Convolution)せよ」というグラフ/演算子(レイヤー単位)を実行します。

コンパイルされた通常のC++プログラム(x86バイナリ)には「畳み込み演算せよ」という命令は存在しないため、CPUが実行中のバイナリを見て「お、これは行列演算だからNPUに投げよう」と動的に判断することは不可能です。

2. 実際の制御フロー:誰が「NPUを使え」と決めるのか?

現代のAIアプリ開発では、以下の3層構造で制御が行われます。

第1層:アプリケーション開発者(意図の明示)

開発者はPythonやC++でコードを書く際、「ONNX Runtime」「OpenVINO」といったAI推論フレームワークのAPIを使用します。 ここで開発者は、以下のいずれかの方法で指定します。

  1. 明示的指定: session.set_providers(['NPUExecutionProvider']) のように、「NPUを使え」とハードコードする。
  2. 自動(Auto)モード: device='AUTO' と指定し、フレームワーク側に判断を委ねる(後述)。

第2層:推論ランタイム(翻訳と最適化)

ここが「司令塔」の実体です。 アプリから「このAIモデルを実行して」と渡されると、ランタイムは以下の処理を行います。

  1. グラフの解析: AIモデル(ニューラルネットワークの計算グラフ)を読み込みます。

  2. パーティショニング(切り分け):

    • 「この畳み込み層はNPUが得意だ」→ NPU用バイナリに変換(JITコンパイル等)。
    • 「この特殊な活性化関数はNPUが非対応だ」→ そこだけCPUにフォールバックさせる。
  3. 命令発行: OSのドライバを通じてNPUにジョブを投げます。

第3層:OSとドライバ(ハードウェア抽象化)

WindowsであればWDDM(Windows Display Driver Model)の拡張であるMCDM(Microsoft Compute Driver Model)などが仲介します。 これにより、アプリ側は「IntelのNPUか、AMDのNPUか」を意識せず、共通のAPI(DirectMLなど)を叩けば、OSとドライバが適切なハードウェア命令に変換してくれます。


3. 「自動振り分け」の現状

先ほど「基本は明示的」と言いましたが、最近は「ソフトウェアレベルでの自動化」が進んでいます。

  • Heterogeneous Computing: Intelの「OpenVINO」などのランタイムにおいて、「AUTO」設定にしておくと、ランタイムが起動時にシステムをスキャンします。

    • 「初期応答速度(レイテンシ)が必要なら、起動の速いCPUでとりあえず最初の推論を行う」
    • 「その裏でNPUモデルのコンパイル(ロード)を済ませ、準備ができ次第NPUに切り替えて、高スループット・低電力で回す」 といった高度な制御をランタイム(ライブラリ)が自動で行ってくれるようになっています。

まとめ:イメージ図

プログラマ(アセンブラ視点)としては、以下のように捉えると正確です。

  1. 通常のコード: CPUがそのままx86命令として実行。
  2. AI処理部分: プログラムコードの中に「NPUドライバへのシステムコール(API呼び出し)」が含まれている。
  3. 実行時: そのAPIが呼ばれると、CPUは計算グラフ(データの塊)をドライバ経由でNPUのメモリにDMA転送し、「キック」する。

つまり、CPUは「NPUという外部装置に仕事を投げるコマンド」を実行しているだけであり、処理の中身を自動判定しているわけではありません。


次のアクション

NPUを制御する具体的な「API」や「ライブラリ」の世界(DirectML, OpenVINO, ONNX Runtimeなど)について、もう少し具体的に知りたいですか? それとも、ハードウェア寄りの話に戻って、メモリ共有の仕組みなどを深掘りしますか?

まず、NPUを制御する具体的な「API」や「ライブラリ」の世界の解説をお願いします。

NPUを制御するソフトウェアスタック(階層構造)について解説します。

アセンブラやCPUの知識をお持ちですので、「アプリケーションからハードウェア(NPU)までの距離」を意識していただくと非常に分かりやすいです。 グラフィックスにおいて「ゲームソフト → DirectX/Vulkan → GPUドライバ → GPU」という階層があるのと全く同じ構造が、AIの世界にも構築されています。


1. アプリケーション・フレームワーク層(Python/C++)

開発者が直接触れる「ソースコード」の世界です。

  • PyTorch / TensorFlow: AIモデルを作成・学習させるためのフレームワークです。 これらは通常、Pythonで記述されますが、そのままでは実行速度が遅いため、最終的な実行(推論)の段階では、次の中間表現に変換されることが一般的です。

2. 中間表現・ランタイム層(ここが制御の要)

ここが、前回ご質問いただいた「NPUに処理を任せる制御」を行う実質的な司令塔です。

A. ONNX (Open Neural Network Exchange)

  • 役割: AIモデルの「共通フォーマット」です。 アセンブラで言えば、ソースコードをコンパイルした後の「オブジェクトファイル(.obj)」「実行ファイル(.exe)」に相当します。「入力Aと重みBで行列演算をし、結果をCに渡す」といった計算グラフが定義されています。

B. ONNX Runtime / OpenVINO / TensorRT

  • 役割: ONNXなどのモデルファイルを読み込み、実際にハードウェアで動かすための「推論エンジン(ランタイム)」です。

  • NPUの指定: ここでプログラマは「Execution Provider(実行プロバイダ)」を指定します。

    • コード例(イメージ): session = InferenceSession("model.onnx", providers=['openvino_npu', 'cpu'])
    • この一行によって、ランタイムは「NPUドライバ経由で処理を行う」パスを選択します。

3. API・抽象化層(OSとの窓口)

WindowsなどのOS上で、異なるメーカーのNPUを統一的に扱うための層です。

DirectML (Direct Machine Learning)

  • 解説: Microsoftが提供するAPIで、「AI版のDirectX」です。
  • 機能: アプリ側がDirectMLの命令(例:DML_OPERATOR_CONVOLUTION)を叩けば、裏にあるのがIntelのNPUだろうが、NVIDIAのGPUだろうが、QualcommのNPUだろうが、DirectMLが良しなに吸収してハードウェアに命令を投げます。
  • メリット: プログラマはハードウェアごとのアセンブラを意識する必要がありません。

4. ドライバ・コンパイラ層(ハードウェアの翻訳者)

ここから先はハードウェアベンダー(Intel, AMD, Qualcomm)の領域です。

  • グラフコンパイラ: ここが非常に重要です。CPUのコンパイラは「C言語→機械語」への1行ずつの翻訳に近いですが、NPUのコンパイラは「計算グラフ全体の最適化」を行います。

    • Operator Fusion(融合): 「畳み込み」の直後に「ReLU(活性化関数)」がある場合、これらを2回の命令に分けず、1回のハードウェア処理でまとめて実行するように命令を合成します(メモリアクセスを減らすため)。
    • Tiling(タイリング): NPU内部のキャッシュサイズに合わせて、巨大な画像を小さなブロックに分割するスケジュールを組みます。

5. ハードウェア層(NPU)

最終的に、コンパイルされたバイナリ(コマンドリスト)がNPUに渡されます。


まとめ:プログラマ視点での実行フロー

具体的な処理の流れを、アセンブラ知識のある方向けに翻訳すると以下のようになります。

  1. ソースコード: Python等でRun()を呼ぶ。
  2. ランタイム: モデル(計算グラフ)を解析し、「このグラフはNPUで動かす」と判断。
  3. API (DirectML等): OSに対して「この計算グラフを実行するコマンドリストを作れ」と指示。
  4. ドライバ/JIT: 抽象的なグラフを受け取り、その場のNPUの仕様(SRAMサイズや演算器の数)に合わせて、専用のVLIW命令列やDMA転送ディスクリプタを生成(コンパイル)し、メモリに配置。
  5. Kick: CPUがNPUのドアベルレジスタを叩く。
  6. NPU: メモリ上の命令列を読み込み、実行開始。

代表的なライブラリ/SDK一覧

開発者が「どれを選ぶか」によって、制御の深さが変わります。

名称提供元特徴アセンブラ・HW知識の必要度
DirectMLMicrosoftWindows標準。DirectX感覚で使える。互換性重視。低~中
OpenVINOIntelIntel製CPU/GPU/NPUに特化。NPU性能を極限まで引き出せる。
QNN (Qualcomm Neural Network SDK)QualcommSnapdragon専用。スマホやPC(Surface)向け。HWに密接。
ONNX RuntimeMicrosoft / Community上記すべてを包み込むラッパー。今の業界標準。低(通常はこれを使う)

基本的には、多くのアプリ開発者はONNX Runtimeを使用し、その裏側でOpenVINODirectMLが黒子として動き、最終的にNPUを叩く、という構成が主流です。

では、ソフトウェアがDirectMLなどのAI-APIを呼び出さなければ、NPUは機能しないということですよね。
Windows 11 や、最新の Mac OS となどは、AI-APIを内部で呼び出しているということですよね。
Linux系OSの場合は、対応しているのでしょうか。
多くのアプリケーションは、AI-APIを活用しているのでしょうか。

ご認識の通りです。非常に鋭いポイントです。

NPUは、CPUのように「OSが起動しているだけで常に何らかの割り込み処理をしている」汎用デバイスとは異なり、明確なAPIコール(命令)がない限り、完全にアイドル状態(Power Gated / 電源遮断に近い状態)になります。

ご質問の3点(OSの内部利用、Linuxの対応、アプリの普及状況)について、技術的な現状を解説します。


1. Windows 11 や macOS の内部利用について

おっしゃる通り、最新のOSはそれ自体が巨大な「AIアプリ」となりつつあり、OSのバックグラウンドプロセスが頻繁にAI-APIを叩いています。

macOS (Apple Silicon)

Appleはハード・ソフトを垂直統合しているため、NPU(Apple Neural Engine)の活用が最も進んでいます。OS標準のCore MLというフレームワークを通じて、以下の機能がNPUを常時使用しています。

  • Spotlight検索: 画像内の文字認識(OCR)や物体の認識。
  • FaceTime: 背景ぼかし、ポートレートライティング。
  • 写真アプリ: 人物の分類、思い出の自動生成。
  • Siri: 音声認識の一部をオンデバイスで処理。

Windows 11 (特に Copilot+ PC)

MicrosoftはNPU搭載機を「Copilot+ PC」と定義し、OSレベルでの活用を急ピッチで進めています。これらはWindows Studio Effectsなどの内部モジュールがNPUドライバを叩いています。

  • Windows Studio Effects: Webカメラの「自動フレーミング」「視線補正(カメラを見ていないのに目線を合わせる)」「背景ぼかし」。これをCPU/GPUでやるとバッテリーが激減しますが、NPUなら数ワットで済みます。
  • Recall (リコール): 画面のスクショを定期的に撮り、NPUで解析・検索可能にする機能(セキュリティ懸念で話題になりましたが、技術的にはNPUフル活用です)。
  • ライブキャプション: 動画の音声をリアルタイムで字幕化する処理。

2. Linux系OSの対応状況

LinuxでもNPUは「使えます」が、WindowsやMacのように「OSが勝手に魔法のように使ってくれる」段階にはまだ至っていません。「開発者がドライバを入れて叩けば動く」というフェーズです。

カーネルとドライバの状況

CPUアーキテクチャごとに状況が異なります。

  • Intel (Core Ultra / Meteor Lake以降): 状況は良好です。IntelはOpenVINOツールキットを強力に推進しており、Linux向けのNPUドライバも提供しています。カーネル(Linux Kernel 6.10以降など)にIntel NPUのドライバ(intel_vpu)がマージされ始めており、標準サポートに向かっています。
  • AMD (Ryzen AI): オープンソースのドライバスタック(XDNAドライバ)の開発が進んでいますが、Intelに比べるとまだ環境構築の手間がかかる場合があります。
  • Qualcomm (Snapdragon X Elite等): ARM版Linuxにおいて、Linaroなどが中心となってカーネルへのアップストリーム(取り込み)作業を行っていますが、まだ発展途上です。

Linuxにおける課題

Windowsの「DirectML」やMacの「Core ML」のような、「全ベンダー共通の標準AI API」がLinuxにはまだ確立されていません。 そのため、アプリ開発者は「IntelならOpenVINO、AMDなら別のライブラリ…」といった使い分け(あるいはVulkanのコンピュートシェーダー経由での利用)を迫られることが多く、OSとしての統合感は薄いです。

3. 一般アプリケーションのAI-API活用状況

ここが現状の最大のボトルネックです。「多くのアプリが活用しているか?」という問いへの答えは、「Adobeなどのトップクリエイティブソフトは使っているが、一般的な事務ソフトやフリーソフトはまだこれから」です。

活用しているアプリ(先進層)

重い処理を持つアプリは、NPUへのオフロードに積極的です。

  • Adobe Creative Cloud (Photoshop, Premiere, Lightroom): 「ニューラルフィルター」や「被写体選択」、「自動リフレーム」などでNPU/GPUを活用しています。
  • Zoom / Microsoft Teams: ノイズキャンセリングや背景処理にNPUを利用し、CPU負荷を下げてPCが重くなるのを防いでいます。
  • Audacity (Intel版プラグイン): オープンソースの音声編集ソフトですが、IntelがNPUを使って「楽曲からボーカルだけ抽出」などの機能を追加するプラグインを出しています。
  • DaVinci Resolve: 動画編集ソフト。「Magic Mask」などのAI機能で活用。

活用していないアプリ(多数派)

  • Webブラウザ: ChromeやEdgeはNPU対応を進めていますが、Webサイト側のJavaScript(WebNNなど)からNPUを直接叩く規格はまだ標準化・普及の途中です。
  • 一般的な業務アプリ: ExcelやテキストエディタなどがNPUを使う場面は現状ほとんどありません(Copilot機能がクラウドベースであるため)。

4. なぜ「すべてのアプリ」がNPUを使わないのか?(技術的背景)

アセンブラの知識がある視点で見ると、理由は明確です。

  1. データ転送コスト: 「1+1」のような簡単な計算なら、CPUでやった方が速いです。NPUを使うには、メモリからDMA転送して、キックして、割り込みを待って…というオーバーヘッドがあります。「巨大な行列演算」が発生しない限り、NPUを使うメリットがないのです。
  2. プログラミング難易度: if (a > b) と書けば動くCPUと違い、AIモデルを用意し、ONNXランタイムを組み込み、推論を実行するコードを書くのは、開発者にとってまだハードルが高いです。
  3. 互換性: 「NPUがない古いPC」も市場には大量にあります。開発者は結局CPU/GPUでも動くコードを書く必要があるため、「NPU専用」の最適化は後回しにされがちです。

まとめ

  • NPUはAPIが叩かれない限り、ただの石(シリコン)です。
  • Windows/Mac: OS自体がヘビーユーザーであり、カメラや検索機能で常にNPUを叩いています。
  • Linux: ドライバレベルでは動きつつありますが、OS機能としての統合はこれからです。
  • アプリ: 動画・画像編集系は対応済みですが、それ以外はまだ「過渡期」です。

次のアクション

少し技術的な方向に話を戻して、「じゃあ、Chromeブラウザの中からJavaScriptでNPUを叩く仕組み(WebNN)」はどうなっているのか、あるいは「NPUが実際に動いている時のタスクマネージャーの挙動(どうやって負荷を計測しているのか)」などにご興味はありますか?

「Chromeブラウザの中からJavaScriptでNPUを叩く仕組み(WebNN)」はどうなっているのか」 これは聞いておきたいです。
また、Safari や Edge も参考までに補足的解説をお願いします。

Chromeブラウザ(およびEdgeなどのChromium系)からJavaScriptを使ってNPUを叩くための標準規格案、それが**「WebNN (Web Neural Network API)」**です。

アセンブラや低レイヤーの知識をお持ちですので、「Webブラウザという巨大なサンドボックスの中から、どうやって特権的なハードウェア(NPU)にアクセスするのか」という、**「パススルー(Pass-through)」**の仕組みとして理解すると非常にスッキリします。

WebGLやWebGPUが、JavaScriptからGPUのシェーダーを叩く仕組みであるのと同様に、WebNNはNPUの計算グラフ構築命令を叩く仕組みです。


1. WebNNのアーキテクチャ(Chromeの裏側)

JavaScriptが直接NPUのレジスタを触るわけではありません。ブラウザが「翻訳者」となり、OSのネイティブAPI(前回解説した第3層)にブリッジします。

以下のような階層構造で命令が流れます。

① JavaScript層(命令の発行)

開発者はJSで「計算グラフ(Graph)」を定義します。

// 擬似コード的なイメージ
const builder = new MLGraphBuilder(context);
const input = builder.input('input', {type: 'float32', dimensions: [1, 224, 224, 3]});
const filter = builder.constant(weights); // 重みデータ
const conv = builder.conv2d(input, filter); // 畳み込み命令
const graph = await builder.build({conv}); // グラフのコンパイル

ここで行われているのは、「NPUへの命令リスト(コマンドバッファ)」の雛形作成です。

Chrome内部の実装です。JSから受け取ったグラフ構造を検証し、OSごとのバックエンドに振り分けます。ここがこの仕組みの肝です。

  • Windowsの場合: Chromeは受け取ったグラフをDirectMLの命令に変換します。
  • Androidの場合: NNAPI (Android Neural Networks API) に変換します。
  • Linux/ChromeOSの場合: OpenVINOXNNPACK に変換します。

③ OS・ドライバ層(ハードウェア実行)

Windowsの場合、DirectMLがさらにIntel/AMD/Qualcommのドライバを呼び出し、最終的にNPUが実行します。

2. アセンブラ視点で見る「WebNN」の技術的要点

アセンブラやハードウェアの基礎がある場合、以下の2点が気にかかるはずです。これらがWebNNの設計思想の核心です。

A. メモリコピー問題 (Zero-Copy)

JSの変数は「V8エンジンのヒープ領域(ガベージコレクション管理下)」にありますが、NPUは「専用のSRAMやDMAアクセス可能な物理メモリ」を要求します。 毎回データをコピーしていると、バス帯域が死にます。

  • 解決策: WebNNやWebGPUでは、ArrayBufferSharedMemory といった仕組みを使い、JS側とハードウェア側でメモリ領域を共有(または効率的なマッピング)しようと試みます。入力画像をテクスチャとしてVRAMに置いたまま、CPUを経由せずにNPUで処理させるような最適化も研究されています。

B. 命令の粒度 (OpCode)

WebNNは「add」「mul」といったプリミティブな命令だけでなく、「conv2d(畳み込み)」「gemm(行列積)」といった高レベルなオペレータを定義しています。 これにより、ブラウザは「conv2d」という1つのJS命令を受け取った際、ドライバに対して「NPU固有の最適化されたコマンドセット(アセンブラ)」を生成させる余地を残しています。


3. 各ブラウザの対応状況と戦略

Google Chrome

  • 現状: 最も積極的です。WebNNの実装を進めており、現在は「Origin Trial」やフラグ付き設定で利用可能です。
  • 戦略: TFLite (TensorFlow Lite) のWebアセンブリ版(Wasm)が現在の主流ですが、これはCPU(SIMD)実行がメインです。これをWebNN経由でNPUにオフロードさせることで、劇的な高速化と省電力を狙っています。

Microsoft Edge

  • 現状: 実はWebNNの影の支配者です。
  • 解説: Edgeの中身はChromium(Chromeと同じ)ですが、WebNNのバックエンドである「DirectML」を開発しているのはMicrosoft自身です。そのため、Windows上のEdge(およびChrome)でWebNNが動くのは、MicrosoftがChromiumプロジェクトにコードをコントリビュートして、自社のDirectMLに繋げているからです。「OS屋がブラウザも作っている」強みを生かしています。

Apple Safari (WebKit)

  • 現状: 独自路線ですが、規格には追従しつつあります。
  • 解説: AppleのWebエンジンであるWebKitでもWebNNの実装が進められています。
  • バックエンド: SafariにおけるWebNNの裏側は、当然Core MLに繋がります。これにより、Webページ上のJSからApple Silicon(M1/M2/M3…)のNeural Engineを叩くことが可能になります。
  • 現状の代替案: Appleは現在、Web標準としてはWebGPUを推しています。WebGPUのコンピュートシェーダーを使って行列演算を行い、強力なGPU側で処理させるアプローチが現状では安定しています(NPUへのアクセスはCore ML経由の方が効率が良い場合も多いため、WebNNの実装は慎重です)。

4. まとめ:ブラウザでAIが動く仕組み

  • これまで (Wasm): C++で書かれた推論エンジンをWebAssemblyにコンパイルし、ブラウザ上でCPUを使って無理やり動かしていた(遅い・重い)。
  • これから (WebNN): JavaScriptが「NPUを使って!」と指令を出し、ブラウザがOSのネイティブAPI(DirectML/Core ML)へのパススルーを行う(速い・軽い)。

PC上で、ブラウザを開いただけで「ローカルにある高性能なAI(LLMや画像生成)」がサクサク動く未来が、このWebNNによって実現しようとしています。


次のアクション

WebNNの話が出ましたが、これと対をなす技術として**「WebGPU」があります。 実は現在のWeb AI(Google Meetの背景ぼかしなど)の多くは、NPU(WebNN)がまだ標準化途中であるため、「WebGPUを使ってGPUで計算させる」**手法を取っています。

「NPU(WebNN)とGPU(WebGPU)、Webブラウザ上でAIを動かすなら結局どっちが覇権を握るのか?」 という、プロセッサの使い分けやアーキテクチャの違いについての比較に関心はありますか?

「Chromeブラウザの中からJavaScriptでNPUを叩く仕組み(WebNN)」はどうなっているのか」
これは聞いておきたいです。
また、Safari や Edge も参考までに補足的解説をお願いします。

Chromeブラウザ(およびEdgeなどのChromium系)からJavaScriptを使ってNPUを叩くための標準規格案、それが**「WebNN (Web Neural Network API)」**です。

アセンブラや低レイヤーの知識をお持ちですので、「Webブラウザという巨大なサンドボックスの中から、どうやって特権的なハードウェア(NPU)にアクセスするのか」という、**「パススルー(Pass-through)」**の仕組みとして理解すると非常にスッキリします。

WebGLやWebGPUが、JavaScriptからGPUのシェーダーを叩く仕組みであるのと同様に、WebNNはNPUの計算グラフ構築命令を叩く仕組みです。


1. WebNNのアーキテクチャ(Chromeの裏側)

JavaScriptが直接NPUのレジスタを触るわけではありません。ブラウザが「翻訳者」となり、OSのネイティブAPI(前回解説した第3層)にブリッジします。

以下のような階層構造で命令が流れます。

① JavaScript層(命令の発行)

開発者はJSで「計算グラフ(Graph)」を定義します。

// 擬似コード的なイメージ
const builder = new MLGraphBuilder(context);
const input = builder.input('input', {type: 'float32', dimensions: [1, 224, 224, 3]});
const filter = builder.constant(weights); // 重みデータ
const conv = builder.conv2d(input, filter); // 畳み込み命令
const graph = await builder.build({conv}); // グラフのコンパイル

ここで行われているのは、「NPUへの命令リスト(コマンドバッファ)」の雛形作成です。

Chrome内部の実装です。JSから受け取ったグラフ構造を検証し、OSごとのバックエンドに振り分けます。ここがこの仕組みの肝です。

  • Windowsの場合: Chromeは受け取ったグラフをDirectMLの命令に変換します。
  • Androidの場合: NNAPI (Android Neural Networks API) に変換します。
  • Linux/ChromeOSの場合: OpenVINOXNNPACK に変換します。

③ OS・ドライバ層(ハードウェア実行)

Windowsの場合、DirectMLがさらにIntel/AMD/Qualcommのドライバを呼び出し、最終的にNPUが実行します。

2. アセンブラ視点で見る「WebNN」の技術的要点

アセンブラやハードウェアの基礎がある場合、以下の2点が気にかかるはずです。これらがWebNNの設計思想の核心です。

A. メモリコピー問題 (Zero-Copy)

JSの変数は「V8エンジンのヒープ領域(ガベージコレクション管理下)」にありますが、NPUは「専用のSRAMやDMAアクセス可能な物理メモリ」を要求します。 毎回データをコピーしていると、バス帯域が死にます。

  • 解決策: WebNNやWebGPUでは、ArrayBufferSharedMemory といった仕組みを使い、JS側とハードウェア側でメモリ領域を共有(または効率的なマッピング)しようと試みます。入力画像をテクスチャとしてVRAMに置いたまま、CPUを経由せずにNPUで処理させるような最適化も研究されています。

B. 命令の粒度 (OpCode)

WebNNは「add」「mul」といったプリミティブな命令だけでなく、「conv2d(畳み込み)」「gemm(行列積)」といった高レベルなオペレータを定義しています。 これにより、ブラウザは「conv2d」という1つのJS命令を受け取った際、ドライバに対して「NPU固有の最適化されたコマンドセット(アセンブラ)」を生成させる余地を残しています。


3. 各ブラウザの対応状況と戦略

Google Chrome

  • 現状: 最も積極的です。WebNNの実装を進めており、現在は「Origin Trial」やフラグ付き設定で利用可能です。
  • 戦略: TFLite (TensorFlow Lite) のWebアセンブリ版(Wasm)が現在の主流ですが、これはCPU(SIMD)実行がメインです。これをWebNN経由でNPUにオフロードさせることで、劇的な高速化と省電力を狙っています。

Microsoft Edge

  • 現状: 実はWebNNの影の支配者です。
  • 解説: Edgeの中身はChromium(Chromeと同じ)ですが、WebNNのバックエンドである「DirectML」を開発しているのはMicrosoft自身です。そのため、Windows上のEdge(およびChrome)でWebNNが動くのは、MicrosoftがChromiumプロジェクトにコードをコントリビュートして、自社のDirectMLに繋げているからです。「OS屋がブラウザも作っている」強みを生かしています。

Apple Safari (WebKit)

  • 現状: 独自路線ですが、規格には追従しつつあります。
  • 解説: AppleのWebエンジンであるWebKitでもWebNNの実装が進められています。
  • バックエンド: SafariにおけるWebNNの裏側は、当然Core MLに繋がります。これにより、Webページ上のJSからApple Silicon(M1/M2/M3…)のNeural Engineを叩くことが可能になります。
  • 現状の代替案: Appleは現在、Web標準としてはWebGPUを推しています。WebGPUのコンピュートシェーダーを使って行列演算を行い、強力なGPU側で処理させるアプローチが現状では安定しています(NPUへのアクセスはCore ML経由の方が効率が良い場合も多いため、WebNNの実装は慎重です)。

4. まとめ:ブラウザでAIが動く仕組み

  • これまで (Wasm): C++で書かれた推論エンジンをWebAssemblyにコンパイルし、ブラウザ上でCPUを使って無理やり動かしていた(遅い・重い)。
  • これから (WebNN): JavaScriptが「NPUを使って!」と指令を出し、ブラウザがOSのネイティブAPI(DirectML/Core ML)へのパススルーを行う(速い・軽い)。

PC上で、ブラウザを開いただけで「ローカルにある高性能なAI(LLMや画像生成)」がサクサク動く未来が、このWebNNによって実現しようとしています。


次のアクション

WebNNの話が出ましたが、これと対をなす技術として**「WebGPU」があります。 実は現在のWeb AI(Google Meetの背景ぼかしなど)の多くは、NPU(WebNN)がまだ標準化途中であるため、「WebGPUを使ってGPUで計算させる」**手法を取っています。

「NPU(WebNN)とGPU(WebGPU)、Webブラウザ上でAIを動かすなら結局どっちが覇権を握るのか?」 という、プロセッサの使い分けやアーキテクチャの違いについての比較に関心はありますか?

「NPU(WebNN)とGPU(WebGPU)、Webブラウザ上でAIを動かすなら結局どっちが覇権を握るのか?」 この話は、興味があります。

結論から申し上げますと、「どちらか一方が他方を駆逐する」という未来にはなりません。

アセンブラやハードウェアの視点で見ると、この2つは「汎用性と効率のトレードオフ」の関係にあり、明確な「住み分け」が進むと考えられます。

  • WebGPU: 「力こそパワー」。電力を使ってでも、今のハードウェアで最大風速を出すための技術(今の覇権)。
  • WebNN: 「柔よく剛を制す」。専用回路を使い、最小のエネルギーで持続的に処理するための技術(未来の標準)。

それぞれの技術的特性と、なぜ「覇権争い」ではなく「住み分け」になるのか、アセンブラ/ハードウェア視点で解説します。


1. WebGPU:今の主役(汎用的な並列演算)

WebGPUは、WebGL(OpenGL ES)の後継であり、現代のGPU(Vulkan, Metal, D3D12)の機能をブラウザから直接叩けるようにしたものです。

  • 仕組み(Compute Shader): GPUの数千個あるコア(ALU)に対して、「このデータを並列で計算せよ」という命令(コンピュートシェーダー)を送ります。AI専用ではなく、あくまで「汎用的な数値計算」としてAIを実行します。

  • メリット:

    • 今すぐ動く: NPUがない古いPCでも、GPUさえあれば動きます。
    • FP32が得意: 精度の高い浮動小数点演算(FP32)はGPUの独壇場です。
  • アセンブラ視点: 巨大なSIMD命令(AVX-512を数千並列にしたようなもの)を手動で制御するイメージです。メモリ管理やスレッド同期をプログラマ(ライブラリ開発者)が管理する必要があります。

  • 弱点:

    • 電力バカ食い: チャットAIを動かすだけでファンが全開になり、ノートPCのバッテリーがみるみる減ります。

2. WebNN:未来の主役(推論特化の抽象化)

WebNNは、「AIを動かすこと」に特化したAPIです。

  • 仕組み(Graph Execution): 「畳み込み」「活性化」といった高レベルな意味を持つ命令を投げます。バックエンドがNPU(あるいはGPU, CPU)に最適な命令に変換します。

  • メリット:

    • 圧倒的なワットパフォーマンス: 行列演算専用のNPUを使うため、GPUの数分の一の電力で同じ処理ができます。
    • ハードウェア隠蔽: Intel, AMD, Qualcomm, Apple… バラバラなNPUの仕様(アセンブラ)をWebNNが吸収してくれます。
  • アセンブラ視点: 「AES暗号化命令」や「動画デコード命令」のような、専用回路を叩くマクロ命令を呼ぶイメージです。中身がどう動いているかはブラックボックスですが、極めて高速かつ省電力です。

  • 弱点:

    • 量子化(Quantization)が必須: NPUは「INT8(8ビット整数)」などを好むため、モデルをFP32から変換(劣化)させる手間が必要です。
    • 対応待ち: ブラウザとドライバの実装がまだ追いついていません。

3. 覇権を左右する「ユースケース」による勝者判定

では、どちらを使うべきか? それは「何をさせるか」で決まります。

ケースA:生成AI(画像生成・LLMなど)

  • 勝者:WebGPU
  • 理由: Stable Diffusionのような画像生成や、大規模な言語モデルは、計算量が膨大かつ、精度(FP16/FP32)が重要です。現状のNPUではメモリ帯域や精度が不足する場合があり、GPUの「暴力的な並列演算能力」が必要です。「ファンが回ってもいいから、速く絵を出してくれ」という場面です。

ケースB:常駐機能(背景ぼかし・音声ノイズ除去・顔認識)

  • 勝者:WebNN (NPU)
  • 理由: Web会議(Meet/Zoom)で背景をぼかす処理にGPUをフル稼働させると、会議中にバッテリーが切れてしまいます。こういう「裏でずっと回っている処理」こそ、NPU(WebNN)の出番です。「静かに、省電力に動いてほしい」場面です。

4. 開発者視点の「現実解」:実はWebNNがWebGPUを使う?

ここがややこしいですが、非常に重要なポイントです。

WebNNは「API(インターフェース)」であり、WebGPUは「バックエンド(実装)」にもなり得ます。

WebNNの設計思想は以下のようになっています:

  1. プログラマは webnn.conv2d() を呼ぶ。

  2. ブラウザがPCをチェックする。

    • NPUがある場合: NPUドライバ(DirectML等)経由でNPUを叩く(最高効率)。
    • NPUがない場合: WebGPUを使ってGPUで計算する(フォールバック)。
    • GPUもない場合: CPUで頑張る(Wasm / SIMD)。

つまり、将来的には「開発者はWebNNを書いておけば、勝手に最適なハードウェア(NPU or WebGPU)が使われる」 という形が理想とされています。

この意味で、プログラミングインターフェースとしての「覇権」は WebNN が握る(握るべき)ですが、裏側で実際に汗をかくハードウェアとしての「実効支配」は、当面の間 GPU (WebGPU技術) が担うことになります。

まとめ:アセンブラ知識のある方への結論

  • WebGPU: 「汎用並列演算プロセッサ」へのアクセス権。自分でガリガリチューニングしたい、パワーリミット解除で最大性能を出したいならこれ。
  • WebNN: 「AI専用アクセラレータ」へのアクセス権。OSやハードウェアにお任せして、省電力・高効率に推論を回したいならこれ。

現状はWebGPUが先行していますが、ノートPCでのバッテリー持ちが重視される昨今、「WebNN経由でNPUを叩く」フローが、コンシューマー向けWebアプリの最終的なゴール(覇権)になるでしょう。

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